来年の干支は午(馬)なので、ウマにちなんだ魚をと

以前、タツノオトシゴ類=シーホース(ヨウジウオ目ヨウジウオ科)は取上げたし、

ウマヅラハギ(フグ目カワハギ科ウマヅラハギ属)は、

もしまた自由に食歩き旅行ができるほど回復したら、

いつかバッチャン(タナカゲンゲ,スズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科マユガジ属)

たちと並べて鍋魚特集をしたいし、

などと思うので、今回はその名もウマウオ(馬魚)という方言で呼ばれている、

ワタカ(コイ目コイ科クセノキプリス亜科ワタカ属)

という淡水魚です

 

奈良県天理市は、

関西では京都府綾部市と並び称される宗教都市として有名ですが、

一方で、古墳群や、日本最古の道とも言われる

(街道として現存という意味では可能性あるでしょう)、

山の辺の道を中心とした、歴史観光の町でもあります

その山の辺の道にある、

日本最古の神社の1つ(ここら辺は言った者勝ち?)の、

石上(いそのかみ)神宮の境内に、奈良県の天然記念物である、

ワタカ(コイ科クセノキプリス亜科ワタカ属)の保護池があります

 

実は石上神宮には、50年少し前に遠足の途中に寄っただけで、

風景はおぼろげなのですが、

戦に負けて落ちのびる後醍醐天皇の馬が鳴き声を立てないよう殺され、

その生まれ変わりが馬魚という記憶は、

天理市の観光案内等で確認すると、-間違いありません

少々後醍醐天皇の残酷さが目立つ説話です

 

飛鳥時代由来の場所なのに室町時代初期の故事で誕生した生き物

それもなんだかシュールな話ですが、

詳しく説明文を見てみると、

近くにあり明治初期に廃絶した、平安時代創建の、

内山永久寺廃寺跡の池から移植したとのこと

まあ、石上神宮の功績と言っても間違いないかも知れません

以前私の家族が滋賀•奈良それぞれに住んでいたことがあり、

両地域で有名な魚類を調べた時、

滋賀でも馬魚という方言で呼ばれることがあると知りました

 

ただ、割合最近まで多数生息していて、

おそらく絶滅危惧種(1A)になるとは思われていなかったはずの、

ワタカの保護池、

それも琵琶湖淀川水系から離れた場所にも、

昔からワタカの生息場所があり、

その保護池のある寺院が廃絶した後も、

戦前から石上神宮によって保護されていたこと自体は、

ワタカの種内系統性の多様さを調べることが出来るという意味で、

かなりの幸運と言えるかもしれません

 

ワタカは多少側扁かつ細長い姿ですが、

成長すると頭部に比べ、胴体の中央部が大きくなり、

菱形の体型になることが多いようです

また口が上向きなことも特徴的です

 

そのワタカについては、

かつては琵琶湖淀川水系固有種とされていました

硬骨魚類のいくつかの分類群では、

喉の鰓の基底部=鰓弓に、咽頭歯と呼ばれる歯があります

中でも特にコイ科では咽頭歯が硬くて化石にも残り易く、

分類の便利な指標となります

 

それによると、ワタカはかつては、

古瀬戸内海由来の地域を中心に、

広く分布しており、

その後、遺存種として、

ほぼ琵琶湖淀川水系でのみ、生残っていたことが分ります

 

ワタカは、内湖やワンドに多く見られ、

まとまって漁獲され、食用とされる魚で、

おそらくある程度の大きさがあるため、

それほど美味しくないとの評が多いようですが、

鮒寿司の代用品のなれ寿司ともされていたようです

 

その一方、

体長30cmにも達して、

水田に入り込んでイネの苗を食害するため、

むしろ駆除も兼ねて、積極的に漁獲される魚でした

 

現在は琵琶湖淀川水系では絶滅危惧種(ⅠA)となっていますが、

これは乱獲というより、

ヨシの広がる内湖が、戦後大部分干拓され消えていったことが、

大きな原因と考えられています

 

ワタカは非常に長い腸を持ち、草食性が強い一方、

若魚の間は動物も積極的に摂る、広い食性を示します

どうやらこれが、分布を広げるには利点となっているようで、

本家の琵琶湖で絶滅が心配される一方で、

琵琶湖のコアユの放流によって、

福岡•遠賀川水系初め各地に人為分布を広げています

 

今のところは、ワタカの侵入による害が大きいとの報告はありませんが、

この意外な分布拡大が、将来的に、

生態系の撹乱になる危険性を、心配する関係者もいます

なかなか難しいことです(2025.12)