「カムフロムアウェイ」 | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

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世界の史跡めぐりの旅行記中心のブログです。…のはずですが、最近は観劇、展覧会などいろいろ。時々語学ネタも…?
現在の所海外旅行記は
2014年9月 フランス・ロワールの古城
2015年3月 旅順・大連
2015年8月 台北(宝塚観劇)
を書いています。

「カムフロムアウェイ」見てきました。

劇場は、元々大阪駅前の大阪中央郵便局があった所で、取り壊しの後高層ビルが建てられて今春JPタワーとしてオープンします。その中にSkyシアターという劇場ができて、劇場だけ先行オープンで公演が行われました。高層ビルと言っても劇場は6階なので「Skyシアター」というのは名前倒れな気がしますが。

カナダの東北部、ニューファンドランド島のガンダ―という町の日常風景から始まります。町長、学校の教師、ストライキをするスクールバスの運転手、テレビの新人リポーター、動物愛護協会の職員…。

そこへ、ガンダー空港にアメリカからの飛行機が不時着するという知らせが入ります。アメリカの空港が突然閉鎖されたため、ガンダー空港に受け入れの要請があったとのこと。しかもやってくる飛行機は最終的に38機!
ガンダー空港はかつてジェット機の給油地点として重要な役割を果たしていたため、大型機を受け入れる広さがあったのです。しかしこのころには飛行機の性能も変わってここが給油地として使われることがなくなっていき、空港を縮小する案が出ていたところでした。

具体的なセットは特になく、いすなどを動かして場面の変化を表します。椅子が2~3列に並べられて皆が着席すると、飛行機の内部になります。不時着した飛行機の乗客たちは詳しい情報もないまま機内で長時間待機させられます。

そのころガンダーの町では住民が乗客の受け入れの準備に大わらわ。ホテルは全然足りない、そこで校舎を使うことにして、毛布や衣類、衛生用品、食料など町中を上げて運びこみます。
ようやく準備もできたころ、スクールバスの運転手はストライキを一時中止して乗客を運ぶためにバスを運転します。

乗客はようやく夜中に宿舎となる校舎にたどり着きます。
そうしてそこでテレビを見て何が起こったのかを知ります…。

前宣伝で2001年9月11日の同時多発テロでアメリカの空港が閉鎖された時に受け入れをしたニューファンドランド島のガンダーの町の人々と、不時着した乗客の物語、とさんざん見ていたので何が起こったかはわかっているのですが、劇中ではそれほど詳しい説明はなくて、みんなで呆然とする、ショックを受けるといった演技をしています。

そして、主役級の豪華キャストが、全員アンサンブルとしてたくさんの役をこなしていくのが見どころです。
町民に乗客など通しで出る役がいるほか、空港の検査員とか1~2場面しか出ない役もあり、確かに一人ずつ役を当てはめて行けば膨大な出演者になります。しかしこれは大劇場の大ミュージカルにはしたくなかったのでしょう。結果的に一人でたくさんの役をやる、という形式になったものと思われます。

しかも全員ほぼ舞台にずーっと出ていて演技で役の違いを表さなくてはいけません。学校の先生(柚希礼音)はカーディガンを着たら乗客、脱いだら先生。機長の濱田めぐみは機長の時は機長らしいジャケット、脱いだら町民。田代万里生は白いキャップをかぶったらイスラム教徒のアリ。
それぐらいの違いなので、見た目がまるきり変わる、ということはないのでそこまで「別人」という感じはしないのですが、みんなそれぞれの役に自然に見えます。コロっと変わるわざとらしさよりも、自然にその役らしくなるのがいいところです。

とうこちゃん(安蘭けい)は乗客のダイアンが主要な役で、ほぼ通しでこちらの役をしています。ほかの役は細かすぎて、店員ぐらいしか把握できませんでした。
咲妃みゆはガンダーの新人リポーターと客室乗務員が主な役で、上着で客室乗務員を表します。
橋下さとしはガンダー町長が主な役ですが、一瞬ものすごい勢いでニューファンドランド島各地の町長に変化していくのが面白かったです。そのうちアップルトン町長が印象に残る役です。

加藤和樹はニューヨーカーで、「人を見たら泥棒と思え」という世界で生きてきたのが、ガンダーの町民を見て価値観がひっくり返されるのが面白かったです。皮ジャンのイケメンパイロットもおもしろかったです。
森公美子は見た目に特徴のある人なので、何役もやっても同じに見えないかと思いましたが、ちゃんとそれぞれの役に見えました。

環境エネルギー会社社長の浦井健治と、秘書の田代万里生はゲイカップル。田代万里生は町民もやっているので主要な役はそれぐらいかと思っていたら、アリが出てきてもしばらく田代万里生だと気が付きませんでした。イスラム教徒があの事件でどんな扱いを受けたかがわかる重要な役です。

住民も乗客もすったもんだの数日間。人間関係が変わったり価値観が変わった人もいて、ようやく飛行機が飛ぶことになって乗客は去り、町民は元の生活に戻っていきます。

最後は後日談です。10年後ガンダーの町にかつて不時着した乗客が集まりました。集まることもできない人もいましたが、それぞれの「その後」が描かれて、あの事件がそれぞれの人たちの人生に何を残したかがより明確になりました。この場面の総括があってこそ、このお話の意味がよくわかりました。しみじみじわじわきますね。
いろいろと異色の舞台で見ごたえがありました。