月組公演「フリューゲル 君がくれた翼」「万華鏡百景色」 | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

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世界の史跡めぐりの旅行記中心のブログです。…のはずですが、最近は観劇、展覧会などいろいろ。時々語学ネタも…?
現在の所海外旅行記は
2014年9月 フランス・ロワールの古城
2015年3月 旅順・大連
2015年8月 台北(宝塚観劇)
を書いています。

「フリューゲル-君がくれた翼」。
ヨナス(月城かなと)は子供の時に父親を亡くし、母はナチス協力者として逮捕され、おじとおばに引き取られます。しかし、ベルリンを西と東に分断する壁が築かれ、東側にいたおじとおばと共にいたヨナスは母と連絡が取れなくなります。そしてそのまま成長し東ドイツの国家人民軍に。

ある時、西ドイツの人気歌手、ナディア(海乃美月)が招聘されコンサートを開くことになります。しかしそのコンサートでの爆破予告があり、ヨナスは身辺警護を兼ねてコンサートの責任者に。

西側の価値観で奔放な言動、要求をしてくるナディア、ナディアを管理しようとする東側。ナディアをなだめるヨナス、ヨナスに反発するナディア、と「顔を合わすとケンカするカップル」という図式になります。二人のやり取りは楽しくて、円熟を迎えたコンビならではと思わせます。

さて、東側でも民主化の波が押し寄せ、学生たちが政府に抵抗しています。
反政府運動を取り締まる「シュタージ」(秘密警察)のヘルムートは鳳月杏。安定の悪役です。

さて、このお話は1988年。つまり翌年にはベルリンの壁が崩壊するのです。ネタバレにはいつも慎重なのですが、これは書いてもいいでしょう。クライマックスにはベートーヴェンの「第九」を歌いながら壁が崩れます。
…となると、どうしても「国境のない地図」(1995年星組、麻路さきのお披露目公演)を思い出します。クライマックスで「第九」の合唱と共に壁が崩れました。さらに子供の時に母親と離れ離れになる、と言う設定も同じ。そしてさらに、日本に行って宝塚を見る…というネタまで出て来る。
ただ、当時は壁崩壊の記憶がまだ新しく、時事問題を取り扱った珍しい作品となったのでした。

それに対して今では若い人たちは東西冷戦も知らない世代。なので、当時がどういう時代だったかもっと伝わるような、説明するような場面やセリフ、演出などがあった方がいいように思いました。なんで東と西があんなに緊張していたのか。そして、この時期に民主化が進んだのは、ソ連でゴルバチョフがペレストロイカを進めたのがきっかけなのでそれを言わないと。それがないと自然に民主化が進んで壁が壊れたみたいな感じになるんですよね。
ハンガリーとオーストリアの国境が開かれて、東側から西側に入るきっかけを作った「ヨーロッパ・ピクニック」まで説明しなくていいからさ…。(「ヨーロッパ・ピクニック」を取り上げたドキュメンタリー番組は録画したことがありましたが、DVDをもう処分したような気がする…惜しい)。

なお、東西冷戦のことを知りたい宝塚ファンなら「プラハの春」(2002年星組、香寿たつきのお披露目公演…またもや星組トップのお披露目)という作品があります。

東ドイツの物理学者の女性、アンジー(桃歌雪)がなんとなく語り部のような役割をしていますが、これはアンゲラ・メルケルのことかな。

一緒に見た友達が、ナディアの衣装が今見たらちょっとダサいんだけど、1980年代ってこんな感じだったねーと言っておりました。ナディアが歌う歌のリズムも1980年代っぽかったです。

それから、最後に出て来る車いすの認知症のおばあさん。…こういう人が出ると弱いです。こういう状態だった母が亡くなってまだ2年。なので思い出してしまいます。

そういえば、小磯記念美術館で「青池保子展」をやっていますが、代表作「エロイカより愛をこめて」は東西冷戦真っただ中に描かれ、当時の空気をよく伝えています。
私もまさかベルリンの壁が崩壊するのを見られるとは思わなかったですね。ブランデンブルク門はピッタリとふさがれ、ここが通れるようになる日は来るのだろうかと思ったものです。(ベルリンには行ったことがないので写真で見ただけですけど)。

あれこれ小ネタが思い浮かぶお芝居でした。

ショーは日本を舞台にした珍しいショー。最初は鳳月杏を中心とする付喪神が並び、100年たったものに憑くという。そうして江戸の花火師(月城かなと)と花魁(海乃美月)の悲恋の場面になります。
そこから文明開化になって、点灯夫がガス灯をともしていき、鹿鳴館で舞踏会が開かれます。フランス人将校(月城かなと)と日本の令嬢(海乃美月)が美しく踊り、つかの間の語らいをする…。
そうして鹿鳴館の時代は遠く去り、モダン文化の時代。…と、時代がどんどん変わっていきます。カフェーでねばりながら原稿を書く芥川龍之介(鳳月杏)が炎に包まれるおどろおどろしい幻想を見て、それが去るともう戦後。
そこから先は普通のショーのような感じになっていきます。最後は大階段の群舞、デュエットダンス…と定番の場面展開に。
栗田優香先生の大劇場デビュー作で、おもしろい発想だなと思いました。