「あかねさす紫の花」はどういった作品か | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

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現在博多座では花組公演「あかねさす紫の花」「Sante!!」上演中です。

 

プログラムに「あかねさす紫の花」の演出を担当した大野拓史先生が面白いことを書いています。
再演が決まると、過去の作品を見た方々から話かけられることが多いものですが、この作品の場合、人によって内容が異なり印象が変わるのです。まるで「主人公の名前が同じ、別の作品の話を聞かされているように」。

「なるほど」と思いました。よく考えてみればそれも無理はありません。

「あかねさす紫の花」の初演は榛名由梨・安奈淳のダブルトップのために書かれた作品です。なので、中大兄皇子も大海人皇子も「トップ」のやる役なのです。
この1年前、月組にいた榛名由梨が花組に組替えになり、花組はダブルトップ制になりました。そしてその前の年に初演が好評だったため、「ベルサイユのばら」アンドレとオスカル編が作られました。榛名由梨のアンドレ、安奈淳のオスカルがピッタリの配役でブレイクし、「ベルばら」ブームが巻き起こりました。

さて、大人気の二人のために、両方共が主役として遜色のない役を用意しなくてはなりません。そのために用意されたのが「あかねさす紫の花」でした。兄として、天皇として人物の大きさを見せる榛名由梨、正統派二枚目のプリンス、安奈淳。個性の異なる二人の主役が並び立った時の華やぎは今でも強く印象に残っています。

その後月組ではトップだった大滝子が退団したため、榛名由梨は月組に戻り、花組も月組も単独トップになりました。

その後、花組で松あきら・順みつきがダブルトップになったことがありましたが、それ以降はダブルトップ制を取ることはなくなりました。

というわけで、「あかねさす紫の花」が初演と同じダブルトップの作品として上演されることはなくなったわけです。

さて、この作品、早くも翌年に雪組で再演されています。雪組のトップは汀夏子、二番手は麻実れい。もちろんダブルトップではありません。そのため副題に「大海人皇子の章」という言葉を加え、歌を増やすなどして大海人皇子が主役として上演されました。
しかし、麻実れいは、汀夏子のオスカルに対してアンドレを演じたり、黒っぽい役が似合うなど異色の二番手でした。汀夏子の兄役も何度かありました。そのため麻実れいの中大兄皇子はちゃんと兄に見えましたし存在感もありました。なので作品の印象は大きく変わることはありませんでした。

さて、それから年月がたち、一路真輝がトップの時に再演されました。一路が大海人皇子です。当然大海人が主役です。
中大兄は二番手の高嶺ふぶきと三番手の轟悠のダブルキャストでした。(天比古とチェンジ)。しかし、堂々たるトップとして大海人を演じきった一路に対して、高嶺も轟もどうしても「兄」には見えず、大きさも足りません。この時の上演で、作品の比重が一気に大海人に移り、印象が変わったんだと思います。

その後、春野寿美礼と瀬奈じゅんで再演されました。博多座での上演だったので生は見てないんですがビデオで見ました。この時は春野寿美礼が中大兄でした。なので中大兄が主役です。歌も増えました。映像で見ることのできる「あかねさす」は一路の時のものだけなので、中大兄が主役になっているのを見たのは久しぶりです。やはり中大兄は主役級の役だと改めて思いました。

結局ダブルトップ制が行われない以上、トップは中大兄か大海人どちらかを演じることになり、それによって主役が変わってしまうのです。見たバージョンによって感想が変わるのはそのためだと思います。

まず大海人が主役だと、額田女王と愛し合っていたのに中大兄にさらわれた…という部分が強調されます。しかし中大兄が主役だと、「本当は額田は中大兄を求めていた」ということになります。
そして脚本はちゃんとどちらにでもとることができるように書いてあるのです。やはりダブルトップのための作品だったため両方立てるような内容にしたのでしょうか。


額田女王は最初に中大兄に会って自分をアピールしますが相手にされません。そこで出会って大海人と意気投合して仲良くなる…のはいいのですが、美しく成長した額田を見て、中大兄は心惹かれます。実際中大兄の命令に逆らうのは大海人にも額田にも不可能なことだったでしょう。しかし額田は最初相手にされなかった中大兄を心ひそかに思っていたとしたら…?

さて、今回の博多座はなんとトップが中大兄と大海人を役替わりで演じます。そんなムチャな…と思いました。しかし、これは同じメンバーで中大兄主役バージョンと大海人主役バージョン両方が見られるという面白い計画かもしれません。

まず大海人主役バージョン。本当に主役。最初にセリの上から登場するし、立ち位置もセンターを取っていることが多いです。そして額田を思って切々と歌う歌に心が痛みます。ああ、そうか。これは、額田がどれだけ大海人を好きだったのか、中大兄のことはどう思っているのかはもう関係なく、大海人の額田への思いをクローズアップしたバージョンなのかと納得しました。

ということで、来週にBパターンを見に行くのですが、ますます楽しみになってきました。みりおちゃんが中大兄を演じるなら、最初に中大兄でセリに乗って登場するのかもしれません。そして立ち位置も中大兄がセンターになって、ひょっとするとオサさんが歌った中大兄の歌も復活するかも?

特に今回は周りの配役もいいですからね。ゆきちゃんの額田女王は本当によかった。れいちゃん、ちなつさんも両方の役が楽しみです。なので作品のレベルは保ったまま役替わりが行われるのです。

大野先生、自分の混乱のもとをうまく利用して、それなら両方のバージョンを作ってしまえー、という目論見だったのかもしれません。みりおちゃんにはかなり負担をかけることになると思うんですけどねえ。そして博多座まで二往復せざるを得ないファンにも。

でも、中大兄主役バージョン、とても楽しみ…。

 

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