今年と言えば既に三年生の私達は受験生で、クラスがよくても鬱になるような年。
楽しみが欲しくなるような時期なのだ。

「今年の行事は盛り上がっていこうね!」

教室に入ると、殆ど生徒で席が埋まっていた。
みんなわいわいと騒いでいる。
こんな風景も今年で見納めだなぁ、なんて思いつつ、自分の席に座った。

すると、正面の席に座っていたまちこが私を振り替えって尋ねてきた。

「ねぇゆず、転校生来るって知ってた?」
「えっ、こんな時期に?!」
「そうらしいよー、男の子だってさ!かっこいいと良いね!」

まちこは髪を1つに纏めたリーダー的な元気な子。
いつも何らかの情報を持っていて、元気で明るいのだ。

さとねは向こうで何かを喋っていた。
席が遠いので移動もなんだか面倒だったので、後ろの子にも話し掛けずに、桜の咲いた校庭を眺めていた。

淡い桃色が淡色な校庭を包み、青空に照らされている。
春の色は、とても淡くて儚げだが、そんな季節が私は大好きだった。

すると、校門の辺りに車が一台止まった。
降りてきたのは男の子。
転校生かな、少し目を凝らしてみたけど、桜の木で顔が見えない。
覗き込んで──・・・

「コラ佐崎!前を向け!」
「ひぃっ!」

担任の早坂に怒られてしまった..
クスクスと笑われて赤面している中、空っぽの席を見つけてどきりとする。
先生が話している数分間、ずっとその席を見つめていた。
暫くして、隣の席の男子、神谷に肩を小突かれて吃驚した。

「なぁにボーッとしてんだよ、来るぞ」
「えー?」

視線を先生の方に向けて、思わずビクッとした。

そこにいたのは、柔らかそうな明るい髪に、今にも消えてしまいそうな白い肌の男の子だった。
華奢で細いのに、何処か凛としていて、優しい翡翠の目をしていた。

まちこが振り向いて興奮している。

「イッケメンだね!!!!!」

私はあまりの衝撃に固まっていた。

続く




ずっと胸の奥に仕舞い込んで居なければきっと、私は私で居られなくなるだろう。
吐き出すことも飲み込むことも、硬いイガイガしたものを出すのと飲むのと同じくらい難しい。
胸のなかに秘めた小さな恋心。

人を好きになることは頻繁にあったから、恋がなんなのか、どんな心地なのかは解っている。
具体的にはよく言えないけれど...。

ある時、これ以上ないってくらい素敵な人に恋をした。

最初はどうでもよかったのに考えるたびに胸が高鳴って、両想いになれたときなんて、まるで甘いケーキを食べたときのような幸福感があった。
そんな人とも数ヵ月で終わり。
お互い性格に違いを感じて、擦れ違ってしまったのだ。

それ以来、ときめくこともなくなって、いつしか恋心など分からなくなってしまった。

そんな私が桜が羽根のようにふわふわ舞うこの時期に、ある人と出会ったのだ。

胸の高まりと、ぎゅっと締め付けられる、ちょっぴり痛くて、ちょっぴり嬉しいような変な感覚。
そうして、彼のまえに居ると、唇でさえも見ることが出来ないくらい緊張してしまう。

私がこの気持ちを理解するまでには少し時間がかかったけれど。


"私とは、ゆず。
これはゆずの物語。"


桜の木々が優しい桃色に包まれて、身も心も優しい気持ちになる季節。
今は春。

「ゆずーっ!」

ゆず──私は振り替えって呼び掛けてきた方向を見つめた。

「あっ、おはよう、さとね!」

ふわふわカールした髪を2つに縛っている彼女、さとねは茶色い瞳で私を見た。
私と言えば、少し茶色がかったロングヘアーのごく普通な女子。
さとねは色白で瞳も大きく、可愛らしい。

「どう?今回は良さげ?」

高校三年生となって、クラス替えも行われるのだが、私は毎回ついていないのだ。

「あっ、さとねと同じ!」
「ホント?ゆずと一緒とかやだ~」

クスクス笑いながらさとねは言って、こちらを見る。

「冗談だよっ」

そういって微笑むさとねは本当に女の子らしい。

「冗談きついよさとね..」

私はにこりとしながら少し眉間にしわをよせてさとねを見る。

「今度は無いからねっ」
「っえー!ひどい~」

実際はそんなことはどうでもよくて、ただお互い嬉しかったのだと思う。


続く