ずっと胸の奥に仕舞い込んで居なければきっと、私は私で居られなくなるだろう。
吐き出すことも飲み込むことも、硬いイガイガしたものを出すのと飲むのと同じくらい難しい。
胸のなかに秘めた小さな恋心。

人を好きになることは頻繁にあったから、恋がなんなのか、どんな心地なのかは解っている。
具体的にはよく言えないけれど...。

ある時、これ以上ないってくらい素敵な人に恋をした。

最初はどうでもよかったのに考えるたびに胸が高鳴って、両想いになれたときなんて、まるで甘いケーキを食べたときのような幸福感があった。
そんな人とも数ヵ月で終わり。
お互い性格に違いを感じて、擦れ違ってしまったのだ。

それ以来、ときめくこともなくなって、いつしか恋心など分からなくなってしまった。

そんな私が桜が羽根のようにふわふわ舞うこの時期に、ある人と出会ったのだ。

胸の高まりと、ぎゅっと締め付けられる、ちょっぴり痛くて、ちょっぴり嬉しいような変な感覚。
そうして、彼のまえに居ると、唇でさえも見ることが出来ないくらい緊張してしまう。

私がこの気持ちを理解するまでには少し時間がかかったけれど。


"私とは、ゆず。
これはゆずの物語。"


桜の木々が優しい桃色に包まれて、身も心も優しい気持ちになる季節。
今は春。

「ゆずーっ!」

ゆず──私は振り替えって呼び掛けてきた方向を見つめた。

「あっ、おはよう、さとね!」

ふわふわカールした髪を2つに縛っている彼女、さとねは茶色い瞳で私を見た。
私と言えば、少し茶色がかったロングヘアーのごく普通な女子。
さとねは色白で瞳も大きく、可愛らしい。

「どう?今回は良さげ?」

高校三年生となって、クラス替えも行われるのだが、私は毎回ついていないのだ。

「あっ、さとねと同じ!」
「ホント?ゆずと一緒とかやだ~」

クスクス笑いながらさとねは言って、こちらを見る。

「冗談だよっ」

そういって微笑むさとねは本当に女の子らしい。

「冗談きついよさとね..」

私はにこりとしながら少し眉間にしわをよせてさとねを見る。

「今度は無いからねっ」
「っえー!ひどい~」

実際はそんなことはどうでもよくて、ただお互い嬉しかったのだと思う。


続く