例えば、君の教室に、ぼんやり宙を扇ぐ少女が居たとする。勿論彼女は何も考えていない。ただ、雲が流れるのを見ていたり、呼ばれて反応するかしないかの差だ。彼女――ゆきは本当になんの特徴もなくて目立たない少女だった。唯一の特徴を語るとするならば、髪を2つに結っていることくらいのものであろう。ただ、そんな彼女にも1つ特技があった。私には、心臓のあるところに光が見えるの!…という事だった。それはかなり大した創造力であっただろう。しかし、私達にしてみればただの盲信に過ぎないのだ。しかし、彼女に告げられた彼等の性格や心情は全てゆきの言う通りだった。
 幼少期によくそれを語られた事がある。私の色は何色なの?と尋ねたところ、彼女は満面の笑みでこう答えたのだ。「深い青色の光!」そして、それは根暗だと言うのだ!なんと言うことだろう、私はそのショックに、幼いながらの頭で深く考え込んだものだった。…とまぁこの話はおいといて、きっとこれからの話を読むことの方がきっと楽しいはずだ。名前だけは偽ったけれど、それ以外は逸話ではない。
 結局、その能力は他人を怯えさせた。年齢がかさむにつれて敬遠されてしまったのだ。しかし、私と言えば、彼女のその能力のお陰で対人関係に悩んだことはない。だからひとりでぼんやりするゆきに私はしょっちゅう話しかけては世間話をした。そして、ふとした疑問を彼女に打ち明けた。何故、その能力を生かさないのか。彼女は曖昧に、使わないと言った。どうして?と聞けばどうでも、と答える。その能力を生かせば人生はきっとうまくいくのに、と私は思ったけれど、空を見つめる彼女の目は、能力に触れることを拒んだように見えた。だから、それ以上の質問は慎むしかなかったのだ。
 私は相変わらずだった。対人関係で悩むのは時間の無駄だと思っていたし、何よりゆきの力を有効利用したかった。でも、冬のある日、彼女は失踪してしまった。何故かはわからないけど、無言の音声メモを私に残して。警察も捜査に出たし、親も何度もメールをして、電話もかけた。いずれも通じず、翌日、携帯だけが見つかった。私は無言の音声メモを繰り返し繰り返しリピートし、無気力に日々を過ごした。




ある朝のことだ。
さとねを見かけた私はおはよう、と声をかけた。
聞こえなかったのか、さとねは階段をのぼっていってしまった。

私は急いで靴を履き替えると、さとねを追い掛けて、肩に触れた。

「ねえ、さと…」

パシィッ

一瞬何があったのか解らなかった。
叩かれた手の甲がチリチリする。

「…触んないで」

さとねの穏和そうな面影はいっさい無い。

「私なにかしたっけ…ごめんねさと」
「私に話しかけないで、ウザイ」

「………」

すたすたと先をいくさとね。
私はショックで立ち尽くしていた。

教室を入ると、冷たい視線が私に突き刺さる。
まちこは怪訝そうな顔で私に近寄ってきた。

「まさかぁ…ゆずが親友の好きなひととるとか思ってなかったなぁ」

なんのことだかわからない。

「取り敢えず…あんたの席はあっちね」

見れば、机は背面黒板の方を向いている。
私の頭はかっと血が上り、訳が解らなかった。
私、これ手出されてる…?

放課後…。
私は今日の出来事を思い出して、目に涙を溜めた。
さとねの好きなひとをとったってどういうこと?
星夜が好きだったの?

机に突っ伏していたら、ばふんという音と共に粉が頭に降りかかった。

顔をあげると誰もいなかった。

こんなことに労力を費やすわけにはいかないのに。
黒板の粉をはらい、私は泣いた。

「誰だろうね」

優しい声と共に頭をはらはら撫でるひとがいた。
涙目で顔をあげると、星夜がいた。

「俺はこんなことしてる人間がいるって思いたくないかな」

私のとなりに腰を下ろして抱き寄せる。
私は複雑な気持ちで戸惑いながら星夜に泣きついた。

星夜はずっと頭を撫でていた。

「大丈夫、君は俺が助けるから」

この時はまだ不自然に思っていなかった。
星夜が何故、そう口にしたのか。
そして、私に優しい理由も。

───私は気付く…

次の月の暑い暑い夏の始まりに。