ある朝のことだ。
さとねを見かけた私はおはよう、と声をかけた。
聞こえなかったのか、さとねは階段をのぼっていってしまった。

私は急いで靴を履き替えると、さとねを追い掛けて、肩に触れた。

「ねえ、さと…」

パシィッ

一瞬何があったのか解らなかった。
叩かれた手の甲がチリチリする。

「…触んないで」

さとねの穏和そうな面影はいっさい無い。

「私なにかしたっけ…ごめんねさと」
「私に話しかけないで、ウザイ」

「………」

すたすたと先をいくさとね。
私はショックで立ち尽くしていた。

教室を入ると、冷たい視線が私に突き刺さる。
まちこは怪訝そうな顔で私に近寄ってきた。

「まさかぁ…ゆずが親友の好きなひととるとか思ってなかったなぁ」

なんのことだかわからない。

「取り敢えず…あんたの席はあっちね」

見れば、机は背面黒板の方を向いている。
私の頭はかっと血が上り、訳が解らなかった。
私、これ手出されてる…?

放課後…。
私は今日の出来事を思い出して、目に涙を溜めた。
さとねの好きなひとをとったってどういうこと?
星夜が好きだったの?

机に突っ伏していたら、ばふんという音と共に粉が頭に降りかかった。

顔をあげると誰もいなかった。

こんなことに労力を費やすわけにはいかないのに。
黒板の粉をはらい、私は泣いた。

「誰だろうね」

優しい声と共に頭をはらはら撫でるひとがいた。
涙目で顔をあげると、星夜がいた。

「俺はこんなことしてる人間がいるって思いたくないかな」

私のとなりに腰を下ろして抱き寄せる。
私は複雑な気持ちで戸惑いながら星夜に泣きついた。

星夜はずっと頭を撫でていた。

「大丈夫、君は俺が助けるから」

この時はまだ不自然に思っていなかった。
星夜が何故、そう口にしたのか。
そして、私に優しい理由も。

───私は気付く…

次の月の暑い暑い夏の始まりに。