鳥山明先生の訃報が渦巻いた先週末だった.

 

その名前と作品は知っているものの、先生個人のことを私はまったく知らなかった.

実際、先生はほとんど取材を受けず、プライベートは謎に包まれて・・・という記載が追悼記事に多かった.

今になって 少しずつ明かされる実像に 少なからず驚いている.

 

45年間もの長きにわたり、第一線で活躍された先生だから、学生時代から迷いなく漫画の道を進まれたように思っていたのだが、実際は違った.

 

・・・高校卒業後に勤務したデザイン会社に馴染めず、数年後に退職.次の就職も決まらずに過ごす中で 金策として 賞金付きの漫画賞に応募したことが漫画家になるきっかけだったそう.低迷期もあったようだが、編集者の目にもとまり、数年後にブレイク・・・その後の活躍は周知の通りである.

 

私は 人間にとって いちばん辛いのは「進む道がわからない時」だと思っている.

たとえ辛くとも、進む道に迷いがなければ 希望を失わず、耐え忍ぶことができる・・・反対に進むべき道が見えない時、あるいは進む道に迷いが生じたときは、足元が見えず、歩けなくなる・・・そのとらえ方に個人差はあると思うが、第一線で力強い作品を放ち続けた鳥山先生にも漫画家になる前に「歩みを止めた」時期があったということが意外だった.

 

さて、私が最初に馴染んだ鳥山作品は「Dr.スランプ・・・」だった.

「則巻千兵衛」「則巻アラレ」という「サザエさん」的なネーミングのキャラクターと、「梅干し食べてスッパマン」というようなギャグセンスが垢ぬけていた.しかも、この「スッパマン」は格好だけが「スーパーマン」の、ダメなヒーローだったが、TV放映時、あの口をすぼめた顔を、TVの前でたくさんの子供たちが待ち受けていたことと思う.「スッパマン」のような、完全無欠なヒーローとは真逆の、つまり「残念な」人間を迎え入れようとする温かいまなざし・・・それが、鳥山ワールドに引きこまれる理由の一つだったような気がする.

 

ところで、水森亜土が歌う「Dr.スランプ・・・」の主題歌「ワイワイワールド」(作詞:河岸亜砂 作曲:菊池俊輔 編曲:たかしまあきひこ)には「♪夢のバクダン うち上げろ!」という一節がある.

「♪夢のバクダン」・・・なんて素敵な言葉なのだろう!

鳥山先生が放った「夢のバクダン」は、高く遠く、海を越えて、国境をまたいだ.

「Dr.スランプ・・・」につづく「DRAGON BALL」は全世界を興奮のるつぼに巻き込み、地球上のたくさんの子供たちと大人たちに夢と希望と笑顔をおくりつづけた.

 

「DRAGON BALL」総収入額 130億円超・・・

「漫画の歴史を変えた」と評される所以かもしれないが、人々に幸せを与えた功績を考えると、少なくも思えるほどだ・・・

 

その人生、その作品、その功績・・・すべてが「限界突破」でした!

 

 

 

 朝日新聞デジタル 2024.3.9 5:00

 

 限界突破×サバイバー(2017)