・・・昨日午後の仕事を終え、残った時間で午前中の残務をこなしていた.

たまたま隣にいた同僚に「夕方からの〇〇〇に行きますか?」と、尋ねたところ、「・・・それは来週では?」と意外な返答.

「えええ!?」とびっくり・・・前夜働いていたので本当は午後から有休をとりたいと思っていた・・・しかし、夕刻の別件のためにまた出勤することが面倒で、そのまま残って仕事をしていたのだった. それが、来週ならば・・・と、急遽半休を願い出て、渋谷に向かうことにした.

 

★下記 ネタバレ含みますので 注意★

 

そういうわけで、かなり遅れたが、 渋谷パルコ8Fの 「WHITE CINE QUINTO」 で1週間限定の「氷の花火」(2015年製作)を観ることができた・・・途中からの入場であったが、ドキュメンタリーだったので、すぐに話には入り込めた. 今までベールに包まれていた、ほんとうの「山口小夜子」像に迫っていく・・・

親しかった方々の発言と写真や映像、所有された衣装から徐々にみえてくる小夜子像・・・そして終盤、小夜子さんへのオマージュからトップモデルの松島花さんを小夜子メーク、小夜子ファッションで撮影するプロジェクトに挑む. シャッターが切られるたび、松島さんの徐々に表情が変わって・・・現場で涙を流す丸山敬太先生・・・「降りてきましたね」という、下村一喜先生の言葉に、どれだけ皆がこの女性を求めていたか、が見えた気がした.

 

上映後、松本貴子監督と、近年の Kiina の写真を一手に担う下村一喜先生とのトークショーがあり、たいへんラッキーだった. 先生は映画にも出演しておられる。会場はほぼ満席・・・下村先生が語られるのだから、それはそうだろう.

 

トークを聞いて、松本貴子監督は山口小夜子を「美のミューズ」としてではなく ひとりの女性としての生き方を描きたかったのだと知る.

世界の最高峰までのぼりつめた女性が モデルとしての賞味期限を感じた時、どのよううに動き、進んだのか・・・?

これは世界的モデルであった小夜子さんだから抱えた、という問題ではなく、仕事を持つすべての女性が直面する、共通の課題だとも思う・・・

 

ところで、小夜子さんがトップモデルとして活躍した時代(1970~1980年代)を顧みれば、仕事への向き合い方が変わった時、多くの女性は結婚や家庭をもつことを考えたのではあるまいか?・・・ましてや、名だたる著名人に請われた存在だ・・・世界が舞台であれば 適う相手はいたと思う。モデルとして最高のところで幕を下ろし、「モデル・山口小夜子」を封印してしまうこともできたはずだ。むしろ、そういう道が もっとも自然と考えられた時代に生きていたのではないか?

 

しかし、彼女はランウェイを降りると、「山口小夜子」を封印せず、「表現者」としてさまざまな挑戦をする・・・舞踏家、女優、DJ、ファッションデザイナー・・・

モデルからの「方向転換」ととらえられるかもしれないが、彼女にとっては表現の方法を変えただけで、「表現者」としてはすべて同じスタンスにあったように思う・・・むしろモデルであった時の精神を維持するために さまざまな表現を試みた、といった方がよいのかもしれない.

モデル時代に「山口小夜子」という伝説を崩さないように努力した彼女が、そのイメージに悩み、今度は(良い意味で)それを壊していく.・・・すこしずつ自分のイメージから解かれ、自由になっていくことを楽しんでいるかのように見えた.

そして、十数年を経て、パリコレに復帰した時、それまでの小夜子自身を含めて、どのモデルとも違うスタイルをランウェイで披露している.

 

一方、その苦悩も披露される.

下村一喜先生は「努力の人であった」という意見を譲らない.

近くにいたからこそ見える、隠された一面なのだと思う.

それを裏付けるように 彼女は「美しいことは苦しいこと」という言葉を残している.

 

ところで パリのとある博物館(美術館?)には、女性の「纏足(てんそく)」がホルマリン固定されて展示されているそうである.

「纏足」とは前近代の中国の風習で、骨がやわらかい幼少期に布で縛って小さく変形させた女性の足である。多大な痛みを伴い、また歩行障害や健康上の害がでる. そして、その目的が男性の性的嗜好に由来することを考えると、女性を束縛し、蔑視した悪習慣でしかない.

その纏足を、小夜子さんは辛い時に見ては自分と比較し、「私はまし.だって、自由に歩けるのだから」と自身を奮いだたせて、より表現者であろうとしたというエピソードが披露され、大変興味深かった。

このエピソードからも、人間「山口小夜子」が垣間見える. 

 

先に私は「人材としての賞味期限」について「仕事をもつすべての女性が抱える問題」と述べたが、仕事の有無を問わず、歳月とともに変わりゆく女性の環境、人間関係、異性関係も含めて、それらと対峙した女性の進む道が問われているように思う. 

映画では、後者についても触れられている.

そして、そのときも、実に果敢に彼女は新しい世界に飛び込んでいくのだ.

 

最後に松本監督と下村先生が 肺炎で57歳で死亡したことについて語った.

老いた姿を晒すことなく、この世を去った小夜子さんを、「冷たく聞こえるかもしれないが、とても山口小夜子らしい」と.

 

生き方のすべてが「山口小夜子」.

伝説となった女性の実像が現れかけると同時に、ふたたび謎も深まる・・・だって、こんな人、いないじゃないか・・・

やはり 伝説の、月の世界の人だと思った.

 

★映画「氷の花火」は好評につき1週間の限定上映が2週間に延長されたそうです.

(2023年11月17日~2週間です) 

 

ラスト一枚で入手できたリーフ!