精神を清浄にしてくれる薬があるとしたら、どの方にとっても体を利する薬になると思いませんか?
清心丸の「心』は、火を意味します。
火の恩恵を受けてこの世界が成り立っているよう、人体も火の気運があってこそ成熟します。
ただし、その必要な「火」も、勝る(過剰になる)と疾病の素になります。
そして現代のストレス社会は、「火」が過剰になりやすい社会だといえます。
東洋医学では、疾病の原因は大きく、内傷と外感のふたつに分けます。
内傷=あらゆる感情(すなわち五欲七情)に因するからだへの悪影響
外感=外部条件、たとえば飲食物や環境・気候条件などのからだへの害
以前と比較して外部的条件はかなり豊かになってきている現代に、その条件と逆行するように難治病が増加傾向にあるのは、心という内部条件の不調和が拡大しているからでしょう。
つまり、心火による疾病が、日々深刻化しているのが現状です。
「ある人の精神が、煩わされ混乱するとき、風が起こり、ある人の心が快楽・享楽に浸かると、火が動く。そして思考が欲と憤怒で満たされたとき、風火という疾病が生じる。」
そう漢方では考えます。
そこで、薬剤の中で火を抑え、風を温順にするものを選択し、ひとつの処方として仕立てたのが『牛黄清心丸』です。
黄疸にかかった牛の胆を取り出したのが牛黄で、ほかにも麝香(麝香鹿の臍の下の分泌物)や、朱砂(鉱物資源)、犀角(水牛の角)など希少な薬剤を含む、三〇数種の生薬が、牛黄清心丸の原料となっています。
次からは、牛黄に纏わる興味深い逸話をご紹介します。
2千5百年あまり前、中国の秦国時代に重用された名医、編鵲に関する伝記に次のような内容があります。
ある日、編鵲が、隣人の老人の中風を治療するために、靑礞石を粉にひいていました。
そこへ、ある農夫が、牛の胆石を手に訪ねてきました。
牛が患い始めたので調べてみたところ、胆嚢に大きな石が入っていたと言います。
さてそのとき、例の中風患者の容態が急変したと知らせが入り、編鵲は急いで老人のところへ向かいました。
ところが、うっかりしてせっかく用意していた靑礞石を置いてきてしまったことに後で気付きました。
そこで、取り急ぎ靑礞石を取りに使いを出したところ、この使いが誤って靑礞石ではなく、農夫が置いていった牛の胆石を持ってきてしまったのです。
一時を急ぐ容態で、稀代の名医も慌てたのでしょうか、編鵲はよく確かめずに牛の胆石を患者に投与することになります。
ところが、なんと老人は、痙攣が止まり、息遣いも次第に整ってくるではありませんか!!
あとになって自分が犯した失敗に気付いた編鵲は、一気に顔が青ざめたことでしょう。
この一部始終を体験して、不思議なことがあるものだといぶかしく思いつつも、編鵲は試しにとほかの中風患者にも牛の胆石を飲ませてみました。
その結果、どの患者にもすばらしい効果が顕れたのです。
このときから牛の胆石(牛黄)は、中風治療に用いられるようになりました。
ただし、ここで一点お断りしなければならないのは、「牛の胆嚢などの尊い薬は、精神をコントロールするのが難しいほどの非常時にやむを得ず使うものであって、無制限に使用して風火の患を抑えることを薦めるわけではない」ということです。
薬を使用する以前に、意識を静寂に保ち、心のなかの欲や憤怒を鎮めることが、内傷に起因する中風や高血圧、糖尿の管理や治癒の基本です。
牛黄清心丸は、いにしえの医聖が人間の疾病を不憫に思う気持から、薬剤を厳密に鑑定して理想の処方を得たものを記録に残したものです。
追記:牛黄清心丸は、中国の宋代1107年、『太平恵民和剤局方』という書物に始めて登場します。その後、韓国では『東医宝鑑』をはじめ、各所に紹介され、現在に至るまで、広く愛用されている処方です。
適応症は次のとおりです。
1、心疾患、脳血管障害の予防および治療。
==>脳内出血、脳硬塞、心筋梗塞、メタボリックシンドローム、高血圧、中風の後遺症
2>鎮静、緊張緩和、ストレス管理。
==>不眠、不安、焦燥感、ストレス、火病、自律神経失調症
椿漢方はソウルにある韓方クリニックです。
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