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東京大田区の平和島駅近くに、「暖暖ラーメン」はありました。

2006年からその翌年にかけてのことです。

通りかかるたびに食事どきでもないのにいつも行列ができているのが気になって、美味しい店なのだろうとドアを押して入ってみました。

 

 

まずは入り口近くで食券を購入。

次に順番待ち用の椅子に腰掛けて待機。

カウンター8席しかないテーブルに空きが出ればそこに順に座っていくシステムです。

待機椅子に座ってからも、先にきたお客さんが食事用カウンターに移動する度に一つ一つ席を詰めていくルールが自然発生していました。

 

 

ついに順番がめぐってきたら、自販機で購入しておいたプラスティックの小さな長方形型の食券を前のカウンターに出しておきます。

オーナーシェフのおじさんは食券の色でラーメンの種類を判別し、次々とラーメンを作り上げていきます。

暖暖ラーメンの特徴は、自分の好みの味を自己申告できることです。

たとえば、

「野菜少なめ、脂多めで」

「メン少なめ、ニンニク多めで」

「野菜多め、味濃いめで」など。

席に着いたお客さんの順番を正確に記憶しているおじさんが、目線で尋ねてくる瞬間を逃さずに、すかさず好みを伝えなければなりません。

 

 

オーナーシェフは、従業員やアルバイトを一人も置かずに一日中カウンター内の厨房に立ちっぱなしです。

それでいつも疲れた様子で、時々思い出したように「らっしゃー」「ぁりがぁー」など決まった言葉を発します。

語尾が消えて、特有の抑揚をつけた発声方式で、そのニュアンスだけでやっと意味を推し量れるほどに聞き取りにくい話し方です。

ごく稀に、慣れないお客さんに「両替はこちらでぇー」と声をかけるときの手の動作は、いつも寸分たがわず判で押したようです。

 

 

ついにラーメン登場。

「んっつ!?? さっき言ったはずなのは、野菜普通でお願いします、なのに……野菜が山のように積み上げられているではないか!!」

自分の言い方が悪かったのかといぶかっていたところへ、隣に座った、こちらもはじめてこの店に来たのであろうお客さんが注文した「野菜多め」ラーメンを目撃して事情がわかりました。

物凄い野菜の量で、彼は目を丸くして苦笑しています。

ちゃんと自分の言葉は伝わっていたこと、この店の「野菜普通」の基準がどれほど大量であるかということをこのとき悟りました。

 

 

カウンターからは厨房内が一望のもとです。

まずラーメン鉢に醤油だれとこの店の秘法とも言える謎の粉末を一匙入れます。

そこへトンコツというにはすっきりしたスープをいれてよく溶かします。

そして豚の背脂をバシバシと振り掛けていきます。

ここまででスープが完成。

後は太めメンを茹でて水をよくきって投入。

その上に別にさっと茹でたモヤシとキャベツを8:2の割合で積み上げます。

 

 

その全工程をじっくり観察した後、自分の前に出された一鉢を期待を込めて一口すすってみると。。。

私には塩気が強すぎ、脂っ濃すぎてさほど美味しくは感じられないのでした。

一鉢を食べきれずに残して席を立ち、店を出ようとしたときにはじめて気付いたのですが、装飾がいっさい施されていない壁に一枚、手書きのポスターが貼ってあったのです。

「この店のラーメンの味は少なくとも3度食べてみた後に評価してください。そうしてこそラーメンの本当の味が分かります。主人拝曰」

 

 

暖暖ラーメンをはじめて食べて若干の失望を感じてから1ヶ月ほどが経ちました。

このころ私は東京の生活と味に少しずつ慣れ始めてました。

店をでるときに見たポスターのこともあり、思いついて再度、暖暖ラーメンに寄ってみました。

 

 

店に入ったのは、ラーメンを3度は食べてみようと言う気になっていたこともありますが、他の理由もありました。

当時私は日本語学校に通いながら語学の勉強に専念していました。

言葉はもちろん、ジェスチャーや行動様式まで日本人を真似したい、と思うほど意欲的でした。

そこで、日本人に混じって入店、カウンターにたどり着き、食券を差し出しながら「味薄めでお願いします」という希望を伝えるまで、外国人と悟られまいと計画したのです。

 

 

この店の主顧客層はやはり若い男性で、流れている音楽も彼らの好みの最新j-popが多かったように思います。

長い待ち時間をこの音楽を聞いて退屈を紛らわすことができたのも、今思えば楽しみのひとつではなかったかと思います。

ミスチルの”しるし”や綾香の”三日月”と出会い、好きになりました。

 

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さて、2回目に食べてみての感想ですが、結論からいうと「悪くない味』でした。

若い顧客層の好み、つまり塩分や脂っこさの面で刺激的な味を求めるニーズに店側が合わせた味付けだろうと自分なりに分析していたこと、それから、数ヵ月間生活してきてそろそろ舌が日本の味に馴染んできていたことが理由ではないかと思います。

 

 

そしてまた一月ほどして、3度目の暖暖ラーメンを食べてみました。

店に入ってみると、もともとはカウンターがもう少し奥の方まで延びていたのが、端から4席ほどをカーテンで囲って使用していません。

こんなにお客さんが多いなら、パートやアルバイト職員をつかってもっとお客さんをとったらよいだろうに……

疲れた様子で、麺のゆで上がりを待つまでの短い時間にもときどき舟を漕ぐほどの状態になるまで一人で切盛するなんて。

(いつも眠そうなわけではなく、麺や野菜の水切りをするときや、醤油ソースを鉢に流し入れるときの表情はもちろん、鋭く真剣そのもので、まさに「職人」という単語が思い浮かぶほどでした。)

 

3杯目のラーメンが置かれました。

「うまい!!」

3回目にして、この感想を持ったのです。

 

新しい環境に慣れて順応していくというのはこういうことでしょうか?

東京ラーメン巡りはこの瞬間スタートし、どんどん日本のラーメンの味に魅了されていくことになりました。

 

 

一時は常連になった暖暖ラーメンも、他ラーメン店に通ったり、忙しくなったりでしばらく足が遠退いたころに、韓国帰国の時期が近づいてきました。

最後の思い出にと帰国直前、暖暖ラーメンを訪ねました。

味は「普通」でした。

その間いろんな味を体験したせいか、ある種幻想が混じっていたせいかは分かりません。

むしろ最後の1回を行っていなければ、もっと美味しい味として、記憶に残ったのではないかと惜しまれます。

 

暖暖ラーメンで感じたこと。

今まで生きてくるなかで学習し、身につけてきた思考の枠。

その枠通りにすべての事物を規定し、断定しながらこれから生きていく方式。

整って過ごしやすくはなるけれど多くのものを排他し、遠ざけているのも事実です。

暖暖ラーメンの味のように、自分の思考の枠を超えてくれる何かにこれからどれだけ出会えるか、楽しみです。

 

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椿漢方はソウルにある韓方クリニックです。

漢方と鍼治療健康と美容のお手伝いをさせていただいています。