「覚えてますか?」

「今、お忙しいですか?」


バッティングセンターで

左打席のケージから出てくるなり

話しかけられた。



覚えてる。


おととしの夏

たった一度、ここで会っただけの男性で

名前も覚えている。


わたしは

仕事はろくに覚えない無能のくせに

人の顔と名前は意外と覚えているのだった。



彼は普段

東京の別のバッティングセンターに

通っているはずであり


熟女の自惚れだったら申し訳ないが

わたしと喋りたそうな雰囲気を醸し出している。


以前に会ったときは

ノーと言えない日本人ぶりを発動

話につきあってしまったら集中力が途切れて

その後のバッティングに影響したから


今回は、かなりの勇気を持って

打つことに集中したいと伝えた。



今は、もう他人にどう思われたっていい。


と言ったら、正直まだ少し嘘になるけれど

どうしても自分を

今いちばん大切なバッティングの時間を優先したい。



ただ、彼に対して

冷たい印象を与えたのではないか

塩対応になってたんじゃないかって

後から気にする自分が、結局邪魔をする。


やっぱり

いい人だと思われたいんだな、わたし。




更に言うと、この日

何年も前にここで知り合った女子野球選手が

すごく久しぶりに来ていて


つい嬉しくなって、浮かれながら

彼女と二言三言言葉を交わした直後



おじさん(冒頭の男性)と若い女の子に対する

自分の態度がまるで違うのは

無意識のうちに差別しているのではないか。


などと勝手に罪悪感を抱いたり。




更に更に言うと、同じ日

職場の先輩アルバイターがここを通りかかり

わたしが打っているのを、少しの間見ていたそうだが

たぶん気を使ったのだろう。


声はかけないで帰った旨の

LINEが来ていた。


先輩なら

声かけてもらって全然構わないのに。


しかし

そういった彼女の優しさと気遣いは

とても嬉しいものでもあった。




そんなわけで

この一日、たった数時間で

いろいろぐるぐると感情が忙しく


帰る時には寒さも手伝って

ひどい頭痛になっていました。



そのような中

左打席からホームランが1本出たのが救いです。





記事中の野球女子は

バッティングセンターの大会で

優勝した実力の持ち主です。


※この2018年以降、大会は開催されていません。たぶん。



↑山田哲人選手(=ヤクルト)が登場します。