人類の自殺5 核兵器攻撃被害想定3 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 葉佐井博巳さんたち核兵器攻撃被害想定専門部会のメンバーは、現在の広島が核兵器で攻撃されたらどのような被害に遭うか、4つのケースを想定した。

(1)1945年と同じ16キロトンの原爆が高度600mで爆発。

(2)1メガトンの水爆が高度2400mで爆発。

(3) 16キロトンの原爆が地表で爆発。

(4)1キロトンの原爆が地表で爆発。

 米ソの対立が激化して「新冷戦」と呼ばれた1980年代前半、核物理学者の庄野直美さんは、新宿駅の上空3000mで1メガトンの水爆が爆発したらどうなるかシミュレーションを行った。その結果は、爆心地から9.5km圏内が致死領域となり、初期の死亡者(がんや白血病などによる死亡を除く)は480万人に達するというものだった。

 しかし、庄野さんのシミュレーションで驚くことは他にあった。広島原爆の62.5倍もの規模の水爆であっても初期放射線の影響はそれに比例して大きくなることはないというのだ。爆風や熱線のエネルギーを最大限に発揮するため、1メガトンの水爆であれば2000〜3000mの高空で爆発させることになる。そうなると放射線は地上に達する間に減衰してしまうためだとか。(庄野直美『ヒロシマは昔話か 原水爆の写真と記録』新潮文庫1984)

 長崎大学核兵器廃絶研究センターによれば、現在アメリカの最新鋭大陸間弾道ミサイル(ICBM)ミニットマンIIIMk-21に搭載される核弾頭の威力は300キロトン。原子力潜水艦に搭載される弾道ミサイル(SLBM)の中で最も数が多い弾頭の威力は100キロトン。航空機に搭載される巡航ミサイルの弾頭は5〜150キロトンのようだ。一方のロシアも最新鋭のICBMは150キロトンと推定され、SLBMは100キロトンといったところらしい (長崎大学核兵器廃絶研究センターウェブサイト「世界の核弾頭データ」)。 このクラスの核弾頭なら放射線による被害も大きいに違いない。

 そして近年はアメリカもロシアも5キロトンクラスの「低出力核弾頭」の開発、実践配備を進めているという。これくらいなら使っても構わないだろうということか。しかし、5キロトンといっても広島型原爆の三分の一の威力だから、数万人があっという間に殺されてもおかしくない。そのような兵器を大量虐殺兵器とは言わないのだろうか。

 そして、5キロトンだろうが100キロトンだろうが、一発で終わりとは限らないのが現在の状況だ。アメリカの場合、現在14隻のオハイオ級原子力潜水艦が配備され、潜水艦1隻にミサイル発射管が20ある。そして1発のミサイルには4〜5個の核弾頭が搭載できる。つまり、いざという時は潜水艦だけで最大1400発の核弾頭を発射できるのだ。(「世界の核弾頭データ」)

 そうなると、たとえ飛んできたのが広島クラスの原爆であっても、それが複数であれば、自分がその時どこにいようとも、良くて「死と隣り合わせ」、悪ければ断末魔の苦しみと共に死んでいくことを覚悟しなければならない。

 核被害の想定といっても、実際にどこから、どんな核兵器が襲ってくるか、絞り切ることは不可能だろう。であれば、16キロトンの原爆を想定して、もう一度1945年8月6日の広島の核被害を思い起こし、さらに現在の状況を加味して考えることで十分な気がする。もう一つ付け足すとすれば、同じ16キロトンの地表爆発か。果たして私たちは、その場にあって逃げ切れるのだろうか。その後に平穏な生活を取り戻すことができるのだろうか。