ヒロシマ2022 核シェルター2 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

2022年の8月6日は栗原貞子さんのお墓に参拝

 核シェルターの入り口はアラートが鳴ったら直ちに頑丈な鉄の扉で隙間なく閉じられなければならない。放射性物質を除去するフィルターのある換気口も忘れずに閉めておかないと意味がない。家族の誰かが間に合わなくて閉め出されても、あきらめるしかないだろう。

 原水爆の高熱を防ぐことも大事だ。シェルターの中なら核爆発による熱線からは守られるだろうが、問題はその後の火災だ。理論物理学者の庄野直美が推測したところでは、1メガトンの水爆が3000mの上空で爆発すると爆心地から12km以内はほとんどの建物が全壊全焼する。新宿が爆心地なら川口、三鷹、武蔵小杉、品川の辺りまで大火災だ。どれほど地下にもぐったら火災の熱に耐えられるのだろうか。酸素は大丈夫だろうか。

 M・ロアン=ロビンソンの『核の冬』によると、イギリスの家庭用シェルターは「自宅の庭に適切なコンクリート製のもの」をつくるのだそうだが、自宅が崩れても火災になっても大丈夫なようにということだろう。しかしそれなら、どこか遠くの別荘地に住んでリモートワークしたほうが手っ取り早いのではなかろうか。いずれにしても、庶民には縁遠い話だ。

 都市火災よりもっと高熱を心配しなければならないことがあるかもしれない。

 庶民のマンションを破壊するのなら通常兵器でもできようが、敵対国の頑丈なミサイル基地や地下宮殿のような政権中枢部を確実に破壊しようとするのなら、「反撃能力」(敵基地“先制”攻撃能力)は核ミサイルの「地表爆発」しか私は思いつかない。それは人の想像力をはるかに超えた高熱、高圧、そして膨大な量の危険な放射性物質をもたらすのだ。

 広島の原爆は核分裂によって爆弾の内部が数百万℃、数十万気圧となって爆発した。これにより火球が形成され1秒後にその半径は約140mとなり表面温度は5000℃になる。こうした火球が地表に接触する高度での核爆発を「地表爆発」という。このとてつもない熱と圧力に耐えられる地下構造物があるのかどうか、教えてほしいところだ。

 この「地表爆発」が庶民にとって最悪なのは、膨大な量の放射性降下物(「死の灰」)ができることだ。よく知られているのが1954年3月1日のビキニ環礁での水爆実験。そこは今も立ち入り禁止となっている。

 広島型原爆が16キロトン、長崎型が20キロトン。その5~6倍の威力を持つ核弾頭が120発も一隻の原子力潜水艦から発射できるから、重要施設を狙っていくらでも「地表爆発」させることができる。

 そしてそのあとはどうなるか。たとえシェルターの中で生き延びたとしても、外に出てみたら上下水道、電気、ガス、通信といったインフラはすべて壊滅しているだろう。食糧や水、医薬品を運んでくれるボランティアがどこにいるだろうか。「死の灰」を免れた清浄な大地がどこかに残っているだろうか。

 核兵器を持ちたいという人は現実にいる。核兵器で儲かるという人もいるだろう。しかし、核兵器が国民の命を守るというのは、幻想でしかない。