昨日の王座戦挑戦者決定戦。ハイレベルとか称揚する意見もみるが、羽生ならもっとやれたんじゃないかなぁ~というのが正直な感想だ。あのパフォーマンスで称賛するのは却って羽生の戦闘力を過小評価しているような気がする。永瀬は丁寧に応接して、終盤のミスが一個あったが、まずは高品質の指し手が続いていて、挑戦者に相応しいものだったと思う。

 

 羽生の序盤はかなり不可解であった。1図一手前までは羽生は屋敷との将棋で経験があるということなのだが、先手の右銀の活用が既に難しい。アマはこういう発想の戦型を選択しない方が期待勝率は高いだろう。なお対屋敷戦では▲7九金で、金銀の連結をつけて、先手玉の右方面への退路も確保して、いい味に思えるのだが、羽生の中で評価が下がるような要素の発見があったのだろうか。

 

 

 

 ▲4六歩に△同歩▲同飛△5四金▲3四歩△同銀と折角打った歩を捨てる羽生。感触が悪い。この歩を捨てるなら、▲3五歩を保留して組み立てる方がいいはずだが、さらに意表の着手が繰り出され絶句する。▲7五歩である。

 

  

 いやぁ・・・名人に定跡なし、とはいっても、流石に無理が過ぎるでしょう。7六の空間が気持ち悪すぎる。

 

 △6五桂に▲3六飛とよろける。これも良く分からない。△4四金▲6六歩に△3五歩と当てられ、▲4六飛とまた戻る。▲3五同銀と斬り合いに出る方がまだしものような気がするし、直前に強硬手を指した流れからしても自然に映るのだが・・・△4五歩に飛車を移動させるしかないが、その場所がよもやの▲4七飛。

 

 

 飛車を横に転用したいのであれば理解できなくもないが、△3六歩▲6七金と指した以上、飛車の横活用は眼中になかったようで、△3七歩成に銀を引き上げるのであれば筋はあるかな、と思いきや、指されたのは▲同飛で銀を引きあげない。であれば▲4七飛ではなく▲4九飛の方がよさそう。

 

 4図の桂打ちも難しい手で、アマに指導するならこういう2手一組の手は避けましょうね、ということになる。狙いの▲3六歩を回避するための有効手は何だろう?とこの局面は私は外出先でリアルタイム視聴していたので考えたのだが、ノーマルアマの思考を遥かに上回る△1五銀を永瀬は選択。いや、この手は流石です。私ごときには金輪際指せない。

 

 この後飛車角交換になって、永瀬が押し切るだろうと予想したところで、本局で唯一永瀬のミスが出たのが5図。▲9五角を回避するための端歩突きだが、角打ちを回避するなら飛車を引く方がよかった。ここで本譜でも生じた▲8五銀と飛車に当てられると後手を引くので、形勢不明に戻っていた。

 

 

 本譜で羽生は▲3七歩と桂馬の回復を優先したのだが、△2九飛に▲7九桂と受けるしかなく、△2八飛成に▲8五銀と飛車に当てたものの、構わず△同飛▲同歩△8六銀の強打を見舞われ、ついにマットに沈んだ。

 

 序盤の作戦構想、終盤にいきなり到来した機会の見過ごしと羽生の本来の調子ではなかったか。直前のコロナ感染の影響でもあったのだろうか。羽生は相変わらず強いが、シビアにみて年齢との競争になり始めているところはあり、新勢力が次々と出てくることもあり、この一年くらいが藤井と再戦できるかもしれない最後の機会かもしれない。ファンも気が揉めるものだ。