昨日の朝日杯(西山対阿部)の振り返りです。藤井の絡まない対局でここまで注目を集めたのは先日の藤本対山下くらいのものか。将棋ファンは非正規ルートのプロ資格獲得ストーリーが大好きなのだな~私もだが。

 

 昨日の速報エントリーに対し、コメントで編入試験の対戦相手をご教示いただいた。以下のようになるということだ。

 

第1局 高橋佑二郎 342 4-1 (.800)
第2局 山川泰煕  341 3-2 (.600)
第3局 上野裕寿  340 12-6 (.667)
第4局 宮嶋健太  339 9-6 (.600)
第5局 柵木幹太  338 17-14(.548)
※右は今日までの公式戦成績
西山 三段リーグ対戦成績
対柵木:0-5
対宮嶋:2-0
対上野:1-0
対山川:2-1
対高橋:対戦無し

 

 世評は第4局までに決めてね、ということで一致している。新四段達と西山は凌ぎを削っていて、決して引けを取っていなかったことも分かる。他方、新四段達のモチベーションは高いだろうと想像する。西山と違い彼らの対局が実況されることはほとんどないのだから。(新人王戦を戦った上野は別として) 西山は対戦相手としては的を絞りやすいところがあるので、作戦の工夫もあるだろう。それは西山も同様であろうし、ブレインとなってくれそうな高段者もいそうではある。

 

 将棋の内容だが、恐らく西山の明白な疑問手は一手のみ。AIがどういようと人間目線であれば一定水準を満たした品質だったと思う。戦型は西山の三間飛車に対し、阿部は腰掛銀。AIはいきなり先手有利としていたが、人間目線だとちょっと何を言っているか分からない。阿部が6筋歩交換に出たところで、西山が瞬発力を見せた。1図の△3五歩。

 

 

 棋譜を並べ

た時、「え? こんな反撃あるの?」と驚いた。▲2六飛で受かっているつもりが、さらに西山は砲門を開く△4五歩。「振飛車から角交換を挑むのかよ・・・」感心するしかない。▲3三角成△同桂▲7七角△4四角のところで私はリアルタイムでアクセスしたのだが(平日の午前中なので、ずっと観戦できない)、「なぜ2筋の突き捨てが入っていないのだろう?」と局面だけでは理解できなかったが、こういう棋譜だったわけか…と局後の棋譜並べで腹落ちしたのである。

 

 それでも▲2四歩に後手は手抜きできず△同歩▲同飛と進み、先手もやれなくはなさそう。△7七角成▲同桂△4六歩に絶対手の▲6四歩も入り、△6二金引に▲8八玉と予め王手飛車取りを回避したところに、△2三歩が飛んできた。これも鋭い。

 

 

 ▲同飛成なら△4七歩成▲同金△3二銀が竜金両取りとなるのか。。。阿部はこれを回避して▲2六飛と引き上げたが、これでは悔しすぎるので、▲同飛成と踏み込み△4七歩成に▲同金ではなく▲6八金と逃げる方が言い分はあったのではないか。本譜は△4七歩成▲同金に△5四銀が炸裂。▲5六銀の我慢に△5五銀の追撃がかかり、西山絶好調。ひたすら隠忍自重の▲4五歩に△4六歩▲4八金まで入り、阿部が有効打を指せないのに西山は4手くらいまとめて指した印象だ。これは楽勝かな、と思いきや、本局唯一の違和感のある手が西山に出たのが3図。

 

 ここは普通の人間なら飛車を角当たりに4三に引き上げ、先手の角の移動の後に△4八角を打つ。これで十分であるはず。本譜は▲4五桂△3七角成▲2三飛成△6七歩成▲同銀△3六馬と進行する。後手は駒得なので指せるという読みだったか。▲6八金が懐の深い手で、これも普通のアマなら金を7八に移動しそうなものだが、この場合は端攻めがありそうなので、7八に空間を確保する方がよいという判断だろう。

 

 △4五馬▲2一竜△6六歩▲同角成△7四桂は後手目線だと残りの歩が少ないので、ギリギリの攻めか? ここで阿部の指した▲1一馬が手順に香車を奪う自然な手に見えて、急所を逸れていた。△6六歩と叩かれると7六が弱すぎて、一気に西山優勢に転じた。

 

 

 西山の現在の実力だが、C2の50歳以上の棋士よりは恐らくは強い。新四段陣とはいい勝負。過去に澤田や佐々木大地に勝利しているが、このレベルまで行くと安定して勝ちやすいとはいえない。。。くらいかと観る。

 

 この対局に勝利した直後に口頭で受験意思を表明したと伝えられる。良い気合か。良い結果になるように応援するつもりだ。