今日行われた将棋棋聖戦第1局。挑戦者山崎隆之の15年振りのタイトル挑戦、ベテランになりかけの年代の棋士、AI非依存系棋士の登場ということもあり、番勝負の行方はともかく(藤井防衛を疑うものはいないだろう)、期待感はあった。山崎は今年度七戦全勝、竜王戦1組も優勝で挑戦者はその時点で最も充実した棋士がなっているはずというセオリー通りの実績もある。過去藤井とは1勝1敗、番勝負では勝てなくても面白い将棋は展開してくれるのではないかという予感もあったのだが、本局は完膚なきまでに藤井の完勝だった。私は午後から在宅勤務に切り替えて、ながら視聴を決め込んだのだが、観戦甲斐があったとは思えず、がっかりしている。

 

 先手は山崎、予想通りの相掛かり採用となる。何か独創的な工夫があるのだろうかとは誰もが期待はする。その手が1図の▲7五歩なのだろうが、一目『うーん・・・』である。後続戦力のない位取りか? 7六に桂馬や香車を打たれる隙ができてしまう。つまり先手は玉や銀の運用が難しくなる。8七歩の露出アングルが拡大してしまうも気掛かりである。独創性を出すならここで4筋位取りから押し上げていくとか、他の方法もあるだろうに。。。そもそもこの種の手を昼食休憩前に指すのはどうなのよ?等々、私の中の評価は非常に低い。 

 

 

 足腰の弱い位取りなので、金を6三に上げて咎めにいくのだろうかと私なりに考えたのだが、藤井の方針は無視。先手玉弱体を見切って、後手玉を強化しておけば戦略的優位は自ずと獲得できるという判断か。局後の感想では山崎は▲7五歩について「欲張ってみたが、後手に突っ張られてしまい、弱気な手を指してしまった」という趣旨の発言をしていたように聞こえたのだが、ではどうすればよいか具体的手順は披露されなかったように思う。

 

 そもそも相掛かりでも飛車先の歩交換を後回しにする発想は最近では普通だが、本譜のように後手だけが歩を手持ちしている状況がいいはずもなく、1図の前の段階で既に先手は指しにくくなっていると私は観ている。

 

 先手の不自然な駒組はまだ続き、△4四歩▲8八銀△4三銀と進んで折角の下段飛車を2六に上げたのが2図。

 

 

 △6三角を警戒したもので、ここから△3一玉▲6八玉と双方の玉が位置換えをする。この応酬は後手のポイント。私はこの局面からAbema視聴を始めた。AI評価は先手45%だったと記憶しているが、この45%は直ぐに数字が減りそうな予感しかない。そこに△3五歩がやってきた。

 

 先手が事前に備えたところ、後手玉の上空というところはあるが、それよりも後手の金銀の厚みが強いと強攻。指されてみればなるほどだが、ここに指の行く棋士がいったい何人いるだろうか。

 

 

 ▲同歩△3四歩▲同歩△同銀右と3筋の制空権が後手のものとなり、▲2九飛の退避に対し△6三角の追撃が来る。

 

 私目線だと▲3六歩はもしかすると損ではないか、というところで、△3五歩▲同歩△同銀となるくらいなら最初から▲5八角と打っておけば歩を一枚節約できたはずだ。本譜だと△3五歩には▲5八角と打っても後手の歩の数が減っていないので、3六で角銀交換に踏み切られ△3五銀~△3六歩と打たれてしまう。

 

 △3五歩▲同歩△同銀に山崎は▲1七角と斬り合いに出た。あやを求めるしかないという判断か。しかしこれも△3四銀▲2四歩△同歩▲3六歩△同銀▲同銀△同角▲4四角と全て先手の注文が通ったところで△4七銀が見舞われ、藤井勝勢が明白になった。双方角で攻めているとはいえ、相手玉への距離が別物である。相変わらず急所にしか手がいかない人である。

 


 

 これで先手玉が7九、壁銀が解消されていればまた形勢は別物なのだが、山崎はそういう陣形整備を最初からいしていないので言っても詮無い。

 

 藤井、すっかり快調モードに入ったか。藤井の中では今の時点だと山崎よりも叡王戦最終局の対伊藤匠戦の方が気になるだろうが、その伊藤匠、急に負けが込み始めてしまい、観戦側としては気が揉めて仕方がない。こちらは最終戦まで2週間あるので伊藤としてもやりようはありそうだが、棋聖戦になると次局は9日後と間隔が短く、しかも次局は藤井先手となるので、藤井の好材料しかない。