昨日今日で行われた将棋名人戦第5局は、藤井が攻めまくって快勝。対戦成績を4-1として名人防衛、タイトル戦は無敗の22連覇となった。余りに異常な数字で頭が変になりそうだが、現実である。そして、直ぐに次の山場となる叡王戦第4局が週末に行われる。。。

 

 この将棋は後手番豊島が振飛車を採用。後手番の戦型としてはありうるかと目されてはいたが、王将戦における菅井の惨敗の記憶も新しく、対藤井戦での起用は難しい判断だったのではないかと想像する。藤井の応戦振りが注目されるが、居飛車穴熊模様から『おお!』という手が出現した。1図の▲6五歩である。

 

 

 私自身、居飛車穴熊をこよなく愛し、ネット将棋、実戦を足せば千局以上は指しているはず。自慢になるが数年前に自分の戦績を調べたところ勝率は8割を楽に越えていたので、へぼなりに語る資格はあると自負するのだが、この手を発想できること自体が信じがたい。居飛車穴熊は▲6五歩のタイミングにいつも苦労するものなのに、藤井にかかればあっさりと歩を差し出してしまい、後手の△4五歩を封じる発想に到達するのか・・・ご本人は局後の感想で、「どうだったか?」と語っていたが、藤井の柔軟な思考には感動するしかなかった。

 

 ここからも駒組戦が続くのだが、豊島は相穴熊を回避して、金を4三に上げるバランス志向。今時の発想なのかもしれないが、4枚に固まった先手との比較で後手玉の弱さは否定できない。相穴熊でよかったのではなかろうか。先手が飛車を3八に動かすようなら後手は角を2二に下げて千日手含みでゆったりと指せばよいはず。。。しかし、豊島は2筋攻撃を先受けして金を5四に上がり、さらに6八角をめがけて飛車を振り直して2図、これが封じ手の局面。

 

 

 

 この手順を豊島は後悔しており、Abema解説の郷田も同意見。この二人がいうからではなく、私も封じ手の局面をみれば先手持ち。居飛車穴熊愛好者として、AIがどういっていてもこれは先手を持ちたい。後手の5四金が中途半端、7四銀も端攻めに転用できるようならともかくまずそうはならない。

 

 ▲2四歩△同歩▲5五歩△同金▲2四角と総攻撃が始まり、常道の△2二飛にも▲3三角成を決行。△2八飛成▲1一馬となり、普通はない取引でも四枚穴熊なので攻めがつながっていればよい。但し藤井自身は▲6四香と打てても攻めの形を作りにくいかと慎重な形勢判断ではあった。この考え方も実力者ならではか。

 

 なぜかAIの評価は互角に近いままなのだが、人間感覚だと後手に苦労が多すぎる。受け続けていても展望がないと考えたのか、豊島が3図の△6六歩と反撃の味を出したのがいかにも緩くて、▲7四金△同歩と玉の斜めラインを空けられたところに▲7五歩とあやをつけられては、形勢が一気に藤井に傾いた。7四銀を取らせるわけにはいかないので、普通は△8三銀引とするものだが、▲6三歩と垂らされるとしんどいか。徹底的に球を拾おうと△2二竜と引き上げてはダメだろうか?

 


 

 △8三金とテコ入れをするが、▲4六角と斜めラインを攻められ△9二玉と回避するしかないところにトドメの▲9四銀。

 

 

 格好良すぎる。強すぎる。藤井不調説を払しょくする快勝で、名人連覇。居飛車穴熊の戦型史にも残る勝利でもある。これで藤井は金曜日の対伊藤匠戦に気持ちよく臨めるだろう。

 

※叡王戦は進行が早いので、午後のテレワークは確定、観るべきものをしっかり観なくては。