今日の棋聖戦挑戦者決定戦は対抗形/長手数の捩じり合いになって、持ち時間4時間の棋戦にもかかわらず終了は20時46分。まさに人間が脳に汗を流している様には感銘を受けた。結果は山崎が制して、2009年以来15年振りのタイトル戦登場となった。正確に将棋史を諳んじていないが、これだけ間隔の空いたタイトル戦挑戦の先例があっただろうか?

 

 将棋の内容に入る前に、若干、周辺情報や背景を回顧したい。

 

 この番勝負、普通に考えれば藤井のストレート防衛であろう。多分、そうなるが、そうはいっても将棋の内容、展開には注目している。AIと一線を画した独自路線がどこまで通用するか、関心を持つのは私だけではないはず。山崎は第1期叡王(今頃いうのもなんだが、第1期と第2期がなぜタイトル戦でなかったのか不思議だ・・・だって決勝は番勝負だったのですよ??)として電王戦でソフトと戦い、完膚なきまでに敗北している。今の藤井の能力は当時のトップソフト以上ではないかとすら思われるが、ご本人にすれば、久しぶりの檜舞台に期するところもあるはずだ。

 

 山崎の現時点の戦闘力だが、挑戦者として不足はない。前期の戦績は並みながら、現時点で竜王戦1組でも準決勝(勝ったのは1組でレーティングが比較的下になる松尾と森内だが、勝っていることは評価されて然るべき)、棋聖戦では森内、渡辺、永瀬(きれいな勝ち方だった)に勝ち、レーティングは17位とまずまず。こういうタイトル戦があれば面白いと思っていた。

 

 将棋の内容だが、対抗形と言いながら出だしから力戦調。今日の私は那智勝浦から帰宅して、色々と片付けをしながらのAbema無音視聴。組み上がったところでは先手の4筋位取りが4四への桂馬、香車の打ち込みがありそうで鬱陶しいが、4六銀がいかにも不安定であり、このまま本格戦闘に入れば後手がよいだろうと見ていたのだが、1図の桂跳ねがいい感触で、雰囲気が変わった。振飛車は左桂が捌ければよし、を実地で行くような好手で、佐藤がリードを奪う。

 

 

 2図まで進むと後手陣は破綻はしていないものの、1図前に銀2枚が4三、5三に並列していたのが影も形もなくなっており、形勢の悪化は明白。山崎は7七桂への対抗と端攻めの味付けで7三桂と動員はしているが、後手から6筋を解しにも行けず、どうぞ料理して下さい、という感じ。

 

 

 苦戦の山崎は7七桂を銀で食いちぎり△2四桂と据えるが、佐藤は桂先の銀で応じて動じない。銀桂交換の代償が現実化せず、左翼に山崎の銀桂が居残り、6八歩が後手の飛車の進路を邪魔している・・・勝ち味がないよなぁ、と私なりの評価を下したところで、佐藤の手が意外なところに伸びた。3図の▲4七金。

 

 

『いや、いい形だが、ここは何も考えずに角を7二に置くだろう? 馬で抑えにかかるのが振飛車の指し方ってもんじゃないの?』と突っ込む。山崎は恐らくは大喜びで△5四銀と目障りな歩を払いつつ、飛車先を通した。ここで▲7二角があって△6四飛に▲5九飛と回り、△5五歩と受けられたところ。先手の飛車が狭くなったので決着をつけに行くしかないと思うのだが、▲8一角成と佐藤はさらに緩め、△6九歩成▲5八飛△6八と▲4八飛と押し込められる。先手の駒が右翼に集結した、といっていいのかどうか。凝り型ではないか?

 

 4図と2図を対比させると、先手が自ら損を招き続けたとしか思えない。4図の歩突きも本格的だが、いかにも足が遅く、いかがなものか。

 

 

 山崎は中盤で思い通りにいかないところがあったようだが、粘り強く指していて、目立った方針のおかしさ等は見当たらなかった。超高品質とか天稟を感じさせる指し方ではないが、こういう指し方であれば期待勝率は上がりそう。藤井相手だとそれだけでは勝てないのだろうが、善戦は期待できるはず。番勝負を楽しみに観戦したい。