名人戦第1局と同日の対局がいくつかあり、その中には竜王戦1組準決勝の佐藤康光対伊藤匠戦があった。1組準決勝に残った4人の中にはA級は一人もおらず、今期B1とB2が二人ずつ。レートでいえば、伊藤匠が圧倒的に上で、伊藤が順調に1組優勝するのだろう、と予想していたが、佐藤康光の快勝であった。強かったですね。まさに破壊。

 戦型は矢倉で、先手の佐藤が早々に2筋歩交換をして角を4六に設置する。

 

 

 標的になりやすい場所だが、伊藤はバランス優先の駒組みを進めていき、これに応じて佐藤陣も総矢倉に組んで一安心というところ。これが急戦でも仕掛けるようだと自玉は豆腐で不安定、流れ弾がビュンビュン飛んでくることになるので、観戦側とするとしんどすぎるので、佐藤康光の強みが発揮できるのではないか、と予想もした。 

 桂馬の両取り回避プラス銀の前線進出のため佐藤は銀を4六に動員。左翼が薄くなるが、そこは右翼の攻勢で緩和。全面戦争になる。

 

 

 伊藤の△2四歩は柔らかい受けで感心。但し本局での伊藤の見せ場はここだけだったかもしれない。

 

 

 △1三角の準王手飛車緩和のために▲3五歩と応じるが、手の価値としては△2三歩の方が上にみえる。佐藤は▲2三歩と叩き、△同金に▲3四銀のぶつけ。正直に言うが、後手玉にアタックしている感じもないし、この金の守備を外しても後手陣は下段飛車が守備に効いているので形勢が有利になっている感じもないのだが、ここで意外にも△1三金と伊藤はよろける。

 

 

 すんなり△同金とするか△9八歩と反撃する方が普通だと思うのだが、いい手なのだろうか。結局、3四の銀が後手玉を仕留める軸の駒になったので、常に正しい結果論に鑑みると疑問なのだろう。 

 ここからの佐藤の指しっぷりは見事で、左桂を動員し、次に2筋を何度もほじくり返す。ここでも伊藤は守勢モードで▲2一歩成を△同飛としているのだが、この辺で腹を括って攻め合いに出る方があやがあったのではないか? さらに先手の角を抑えに来た3六銀を▲4八桂でアタック。この手は私には全く見えなかった。流石。

 

 

 この桂馬が二段跳ねをして後手の角を仕留め、▲5五角が強烈な捨て駒。

 

 

 さらに敵玉頭に空間をこじ開ける。さらに▲3三銀成の押し売りからの仕上げまで怒涛の寄り身で強敵を倒した。 まさに丸太捌きである。


 腕力の違いというものが将棋にもあることを実感させられる一戦。これで佐藤は本戦に一番乗りである。何だかんだで複数棋戦で勝ち上がる佐藤康光。2024暦年はこれで7勝1敗、竜王戦では広瀬、永瀬、伊藤とレーティングで上の棋士達を撫で斬り。漸く会長業務から解放されてプレイヤーモードになってきた、と言い切りたい。

 

※森内が初めての竜王をとった時の挑戦者決定三番勝負の相手は中原誠だった。中原は本戦準決勝で佐藤を破っていて、当時は残念な思いをしたのだが、もしかすると同水準の勝ち上がりを佐藤康光は今回行ってもおかしくはない。