今日は叡王戦第1局。伊藤が対藤井初勝利を挙げるか、3度目の挑戦をごく短期に決めている経緯もあり、気力の充実も十分以上感じられ、期待も随分とあったはず。実際、本局は伊藤の対藤井戦では初めてだろうか?90手を経過しても互角以上の形勢は維持していた。惜しむらくは最後まで行きつけず、藤井の制勝となった。

 

 今日の私は日中は外出しており、局面に接したのは15時半頃。局面はほぼ互角、残り時間では後手番の伊藤が有利、ということは伊藤が相当に善戦しているということになる。素人目にどちらを持ちたいか評価してみると、「先手桂得だがその桂馬を7九に打っているのでメリットなし」「先手は2筋のと金を活用する余裕はなさそう」「先手の飛車と金の位置が良くない」「銀交換を挑め、△6九角の含みもあり、後手を持ちたい人が多いのでは?」となった。

 

 本譜でも伊藤は△6五銀と進撃、銀交換に応じるわけにはいかないので藤井は▲5五銀と回避しつつ後手玉頭を狙う。ここで伊藤は△5四歩と銀にアクションをする。

 

 

 読みの裏付けのない経験談ベースの感想だが、局面がここまで煮詰まると、「銀を捕獲して勝ちました」ということはありえない~捕獲するまでの二手の間に猛攻をかけて代償を得られるだろうから~ましてや先手は藤井、豊富な持ち歩もあるので永遠に手番が回らずに押し切られる心配をしなくてはならなくなる~そんなのはいやなので△7六銀と出て、攻勢で先手の攻めを緩和したくなる。実際、そうする方が後手としてはよかったようだ。

 

 ▲6四歩△5三金▲7七歩は誰でも考えるところで、この時点では電車で移動中の私はAbemaの解説も分からず自力で検討するしかない。△8七銀成▲同桂△同歩成▲同金△8六歩で後手が勝ちそうだが、もしかすると▲7六金で先手が凌いでいるか? (局後にAbemaを視聴したところ、この手はあるようなことを中村が語っていた) △8七歩成▲7九玉△6七桂▲6八玉△7七と▲同玉△8九飛成に▲6三銀△6一玉▲1一とと進行すると飛車成まで生じているが、△8七角がそれを上回るだろうか? ▲2一飛成には△3一桂で後手玉が持ち堪えているようにも思える。

 

 本譜は△5四歩▲6四歩△5三金と利かせて、▲8二歩△同飛と飛車を釣り上げ、▲4一角。先手が立て続けにポイントを上げた感じがする。△4三金上▲8三歩△同飛と角成が飛車に当たるように再度工作をしてから、▲5六銀の体当たり。局面の複雑化も極まっており、懸念した通り5五銀を無事に捕獲できる感触は微塵もない。これで形勢の評価値は相当に先手に傾いたかといえば、そういうことは全くなく、むしろ後手が悪くない形勢であるという。理由は次の伊藤の着手にあった。豪打△6九角!!!

 

 

 よく考えれば、6五銀が移動しない限りは先手の角が7四に成ることもなく、仮に▲6五銀△同桂と進行すれば、桂馬の移動により後手の飛車が三段目に通っているので角成もそこまでは痛くはなく、7七が塞がれるので後手必勝になる。当然と思われた▲8三歩がやりすぎだったのだろうか?(終局後、Abemaで中村は8筋の歩の叩きのタイミングが全て適確だったと評価はしていた) 確かこの時点で17時前で、既に92手を経過している。この時間帯、手数で互角以上の形勢を伊藤が藤井相手に築くのは初めてのはず。これはやったか?と期待を膨らませた伊藤ファンは少なからずいただろう。素晴らしい踏み込みであった。

 

 藤井は▲2九飛と飛車を活用する。この時点で私は自宅最寄り駅に到着し、局面アクセスが中断する。△7八角成以下の手順を想定し、脳内検討を行うが、▲同玉△7六銀▲8八歩とされると案外にしぶといか? でも、△5五歩の銀取りが間に合うような感触がある。。。評価値は近接していても、これは剣が峰で殴り合っているようなもので、長くはかからないはず。

 

 帰宅してAbemaをつけると△5五歩▲6九飛△5六歩と進行していて、評価値が一気に藤井に傾いていた。余りの転変に動揺し、『え~、折角投入した角を無償で提供した上に、先手の飛車の6筋転換を許すの?? いや、ないわ~』と呟く。△5六歩と2枚目の銀を取っても、先手玉と離れた位置の銀を掃除してもなぁ・・・と愚痴るしかない。そこに▲7七桂が飛んできて、いかにもトドメ感がある。これで玉の背後のスペースまで空いている。

 


 伊藤は△6六歩と粘りにでたが、▲8四歩が(その時点では私には意味が分からないながらも)やはり好手。△同飛▲6五桂となると後手の玉と飛車の位置関係が悪く、王手飛車の筋が生じている。△6四金と上部を厚くしようとしても▲6六飛△6五桂▲同飛とばっさり切り捨て、△同金に▲6三銀で投了に追い込んだ。

 

 形勢が傾いてからたったの45分、2図から15手って、一体どういうスピードなのよ? 黄金聖闘士と白銀聖闘士くらいの差があるのでは? どうすれば伊藤は藤井に勝てるだろう? 藤井戦を除けば勝率8割に達するので、文句なしに強いのだが・・・

 

 藤井に勝とうというのであれば、どうあっても終盤で引けをとらないくらいの棋力が必要であることをまたも認識させられた。新しいものに注目するのも軽薄だが、先日の藤本渚の終盤はそれくらいの品質だったかもしれないと感じている。

 

 とはいえ、本局は両者の対戦の中では最充実の内容であった。年度初っ端に年度名局賞候補が出現したと評価している。