23年度の最高勝率賞をとれなかったものの60 戦 51 勝 9 敗(0.850)、順位戦昇級、王位戦リーグ入り、レーティング順位は14位(今日時点)と突っ走る藤本渚。山崎に逆転勝ちして王座戦本戦に進出、王位戦リーグでも豊島にこれも逆転勝ちでリーグ戦を好調に進めている。

 

 2局とも並べたが、序盤の粗さがみえるが、終盤の手の伸びと正確さは素晴らしく、これは一廉の天稟の持ち主と感じる。これで序盤が整えば、もしかすると藤井と戦える素材かも?と期待したくなるのを抑えられないのが正直なところだ。

 

 今日は王位戦に触れます。この将棋は藤本よりは名人戦を控えた豊島のパフォーマンスを見たくて注目をしていた。1図は豊島が会心の先制打を放ったところ。直前の△4三銀が相当に変で、わざわざ2筋のガードを外しているのをモノの見事に咎めた。△同角だと▲2二金と露骨に打ち込んで先手よし。本譜は△同歩で、いきなり▲2三金でも良いと思うが、豊島は▲7七桂を選択。△2五飛以下飛車交換にはなるが、直後▲3九金と飛車打ちを防いでおけば支障なし、という判断であり、金寄りを受けて藤本は折角上がった銀を再度3二に引いているので(悔しすぎて舌を噛み切りそうだが、隠忍自重に如かず)、先手よしなのは間違いないのだろうが、シンプルに金を2三に打ち込む方が局面は分かりやすかったと思う。筋のいい人は駒を全部起用したくなる傾向があるのだが、それは結構な理想論で、速度を犠牲にしているところもある。この辺はやや損な手順だったと私は観ている。

 

 豊島は嵩にかかり3筋を突き捨てて▲3四金と打ち込む。後手の角を圧迫すれば、先手の角がさらに活性化するという読みで、いい感じで進行していると思われたところに、藤本の豪打が飛んできた。2図の飛車打ち。

 

  後手陣には飛車の打ち場所はない、後手にとっての難物は先手の角であるから除去の段取りに必要だから飛車を打つのだ、といえば簡単に聞こえるが、これは中々打てるものではない。AIはどういっているのかな?と調べると、この飛車打ちが正着だという。うーん、すごい。

 

 この局面をみれば、まずは金を守らないと話にならないよね、と金寄りが第一感、もう少し考えると『あ、そうか、▲5六歩で金に紐がつくよね』と気がつき、先手優勢は不動と確認できる。ところが、ここで豊島が数年前によく見られた大噴射を犯してしまう。よもやの▲8五飛。。。。

 

 いやぁ、この手はありえないわ~ だって後手に飛車を打ち込まれないように金を寄ったのに、その金を後手の飛車にタダで渡すってどういう発想なのよ? 現状の後手陣では飛車の打ち場所がないので▲8五飛と打ったのかもしれないが、後手に金が渡ればちょっとやそっとでは寄りが見えない。

 

 書ききってしまうが、このクォリティでは藤井聡太とタイマン張れるとはとても思えない。持ち歩がないので先手には速い攻めがなく、一歩を獲得するために▲4四角△5四金▲6六角と後手を引かされるのも痛い。それでもその歩を活用して▲3四歩と攻撃を再開し、もう一枚の角を1五に投入して3三の一点突破を図る豊島。形勢混沌かというところで、再度、藤本の豪打が出る。桂のタダ捨ての△5七桂成。

 

 

 次の一手で出題されれば指せないこともないが、なるほど素晴らしい。鮮やかである。

 

 藤本、もしかすると中盤以降ノーミスなのでは? 序盤で工夫を凝らす伊藤匠とは異なり明確に中終盤型であるようで、伸びしろがありそうだ。王位戦紅組は2勝1敗が前期挑戦の佐々木大地、斎藤慎太郎、藤本の並走でこれは興が乗ってきた。そういえば佐々木大地は棋聖戦も連続挑戦を目指して順調に勝ち上がっており、こちらも気になるところである。

 

 藤井の対抗馬候補ということで従来以上に藤本はケアしていこうと思う。