今日の棋王戦第2局。藤井聡太は今日も滅茶苦茶強かった。

 

 先手番伊藤匠の作戦通りの進行→駒得ながらバラバラの後手陣+先手竜を製造、駒損回復のルートも視野に→自陣角2枚投入で竜を掣肘→いつのまにか後手玉周辺に防御壁構築→妙桂投下→駿足の寄せ→格好良すぎるトドメの桂馬=双方持ち時間を残しての終局=考えるまでもない進行ということか。。。形勢が傾いてからの仕上げの速いこと速いこと。あの伊藤匠がここまで押し込まれるのが信じられない。第1局を持将棋に持ち込んでから伊藤は3連勝、いずれも強さを実感させる勝ち方で、今週の竜王戦1組2回戦の対木村戦も粉砕という勝ち方で準決勝への勝ち上がり。(次戦は佐藤康光と) 先手番の本局の期待は否が応でも高まっていたが、この展開かぁ。。。

 

 将棋は伊藤の相掛かりかと私は予想していたのだが、直前局の対木村戦を先手番角換わりで快勝していることを踏まえたのかどうかは不明ながら、角換わりになった。例によって開戦からしばらくは猛スピードで進行し、開始1時間少しで1図になっていた。ここに至る手順でも分岐はいくらでもあり、前例を離れてもいるのだが、双方とも整理済みの模様。何なのこの人達・・・消費時間は伊藤12分、藤井22分。

 

 

 AbemaのAIでは▲5六銀、▲5六歩、▲7三歩成が候補手で挙がっていた。こういうハイレベルの将棋でも、自分なりの考察をしないと面白くない。私であれば▲5六歩と後手玉の頭を狙いたい。後手の銀が2四に移動していて中央が薄いし(藤井が△2四同銀を選択したことを咎めている意味もある)、飛車を5九に展開すれば△4七銀とか△9二角といった筋を回避できて味が良い。将棋の真髄は歩を突き上げ、大駒を活用することにこそある。そう信じるがゆえに▲5六銀などは芋筋にしか思えないし、▲7三歩成も味消しにしか思えないのだが、伊藤は6分の考慮で▲7三歩成。△同金に▲8二銀以下銀を犠牲に王手飛車をかけた。

 

 『ふーん。。。局面を限定して戦いたいということか・・・それは一つの発想だが、竜が活躍できないと駒損が痛いし、藤井にこういう指し方で勝てるかな・・・』と懸念もする。

 

 飛車を打った伊藤に対し藤井は驚愕の手抜きで△8六歩!!!! 消費時間88分、さらに昼休み1時間も別にあるので、実質148分の考慮の結論がこれか。

 

 

 着手の時点でも今の時点でも意味が分からない。歩切れの先手にわざわざ歩を与えるの? ▲8五桂も生じていますよ? とりあえず先手の二枚の飛車を射程に入れる△7四角を打ってから・・・と考えるのが普通だが、人類創生以来最も将棋を理解している人物の着手である。その内、解明もされるだろう。

 

 伊藤は香車を入手し、歩切れも解消、攻めの継続に展望が見えたと感じたかもしれないが、実際は難しかった。2図で68分、3図直前の▲9二竜(当然の手に見えるが・・・)にも74分。。。昔から連続長考は形勢悪化と隣り合わせというが、なるほど期待の桂打ちに対し3図の角打ちで返されると難しい。

 

 ▲7三桂成△同角は当然として、気がつけば後手玉の隣に防壁ができていて、竜の利きを止めている。先手目線でいえば、この竜が存分に活躍してこそどうにか戦えるので、可動範囲を確保しなくてはならない。となると見た目は芋手だが▲5三金しかない。以下△同玉▲7二竜△6二金で長い戦いになるし、明確に先手よしというほどでもないが、少なくとも先手劣勢ではない。妥協のようでもこうするしかなかったはずだ。

 

 本譜は代えて▲9四竜だったので△8四歩とさらに防御されて、竜の生存が難しくなった。伊藤の能力であれば本譜の変調を感じて当然だと思うのだが・・・ここから形勢は一気に後手に傾く。

 

 7筋の後手の駒に働きかけるしかないと▲7六歩と打開を図る伊藤に対し△6三桂が素晴らしい。玉頭にヘルメットを設置した意味もあり、桂馬の跳ね口は二か所確保され、先手玉を制してもいる。

 

 

 ここでAIは▲7八香を推奨しているのだが、これも意味が全く分からない。藤井はどうか分からないが、実戦でこの香車を打てる人間がいるとはとても思えない。伊藤は▲8六金と▲7六歩に指し手を連動させるが、藤井は△8三角とかわし(AI目線では疑問だそうだが、人間目線では妥当だろう)、△5五角からあっという間に先手玉を仕留めた。

 

 前も同じことを書いたが、駒落ち戦もしくはA級+竜王戦一組在籍者全員の相談将棋でもないと、この男とまともな勝負になる気がしない。ここまでの隔絶感は前代のどの天下人には覚えなかったもので、将棋史上、破格の時代にいることを毎日実感せずにはおれない。

 

 それでも伊藤は一定の形勢は築いたので、評価できる。しかし、次の名人戦は多分、そういう状況すら4局の内あればいいくらいだろうか。

 

※2月25日追記 改めて考えると△5五角が凄かった。この角が結局は先手の竜を封じ込める原動力になったわけだ。一見狭そうな地点への角打ちで展望を持てる人がいったい何人いるだろう。