昨日の将棋朝日杯、決勝戦が素晴らしすぎて準決勝が霞んでしまったのだが、藤井-糸谷戦はなかなかの激戦だった。

 

 まだ数局の事例しかないが、対藤井戦では角換わりはやめておこうというコンセンサスでもできているのかこの将棋の戦型は雁木系。藤井のいつもの初手▲2六歩に対し糸谷が△3四歩なので、この時点で角換わりには相当になりにくい。

 

 作戦は上々だったようで、糸谷は袖飛車から強引に飛車角交換に持ち込み、馬を製造。藤井は左翼を歩の工作で崩して竜を作りながら香車得を果たすが歩切れ。この過程で糸谷の桂馬が中央に進出しており、形勢は互角のようにみえる。Youtubeの解説はAI評価を載せないので、盤面をバイアスなしに見ればそういう評価になるのだが、実際に事後検証をしてみるとほぼ互角だったようである。

 

 1図の角出も指された瞬間は普通の手に見えたが、▲3六飛と浮かれると、あれ?損した?となる。角出をせずに△8四馬と馬を先逃げしておけば、生角は8八まで成り込めるルートもできる。本譜は△5五角が無駄な途中下車、▲3六飛が労せずして中段からの飛車の横転換の機会を掴むものとなり、藤井にポイントが入る。

 

 そうはいっても9筋の2枚竜はいかにも渋滞しており、形勢差は僅か。2図の△8五桂も変な手ではないと思われたが、この後の展開で不安定な駒となり、形勢は藤井に傾いた。ここでは△5五馬▲6六歩と馬を逃げて△9二銀▲同竜△2九飛が銀取り(=△6六竜の先手)と金取りをみて、後手に戦いようがあった。

 

 糸谷の攻撃が鋭いようにみえるが、3図の▲7八歩で食い止めている。いや、本当に食い止めているのかは観ている方はAIの支援なしだと分からないのだが。

 

 我々レベルに限らず相当なトップ棋士でも読みの誤差に対し保険をかけて自玉周りに駒を埋めたくなる、アウトレンジの攻撃をしたくなるところで、藤井はミリレベルで距離と速度差を認識できるがゆえに、無駄手が生じない。この将棋の終盤はまさにそういう展開で、後手の小駒からなる攻撃陣を脅かしながら後手玉との間合いも詰め、最後は一気に即詰み。

 

 

 終局の瞬間、「強い!」と心から思ったものだ。

 

 それでも永瀬は決勝でその上を行ったのだから立派だった。