今日は将棋朝日杯の準決勝、決勝の対局日。こちらで通しで観戦できます。

 

 

 永瀬が西田、藤井に勝利し、初優勝。準決勝では関心の大半は藤井ー糸谷戦に行っていたと思われるが、この将棋も大激戦で最終盤藤井が抜け出しての辛勝。番勝負ではなかなか好勝負にならないが、一番勝負であればトッププロもそれなりの工夫で戦えなくはないのかもしれないという感触はあった。

 

 上記の生中継は敢えてAI評価値を伏せて進行。これはこれで、自分の脳味噌で局面を考えるので悪くはなかった。大半の時間を佐藤康光が解説、聞き手安食のペアがこなし、立ちっ放し(給水、給食の時間もなかったのでは? 特に準決勝では)で大変だな~ Abemaだと30分毎にローテーションがあるのに。決勝は途中で準決勝敗退の糸谷、西田が登壇して休憩を提供、また羽生善治も一時解説に登場し、佐藤康光とのペア解説はなかなかに豪儀であった。

 

 今日は決勝戦だけ触れるが、実に名局、熱戦でファンが堪能できるものだった。枝葉も豊富で、本譜の指し手はAI目線でも正着手が多かったらしいが、羽生、佐藤が二人揃って頭を悩ませる局面の連続で、この二人が候補に挙げた手が実際はどうだったのか等自力でもいいしAIを使いながら解析してもいいだろうが、いずれでも棋力向上には役立つだろう。

 

 戦型は矢倉。先日のA級順位戦の佐々木ー永瀬戦を永瀬が先番でトレースする進行。1図は既に一山も二山も越えたところだが、この時点での消費時間は永瀬2分、藤井38分!!! これもA級順位戦で永瀬が斎藤相手に10分対5時間で進行させ、局面評価自体はほぼ互角でも永瀬が遥かに指し回しのポイントに習熟し、かつ残り時間の圧倒的な差もあり、そのまま押し潰した一戦を思い出させる。しかし、藤井は別格で相手が仕込んできた戦型でも時間を使いつつも、破綻もせず形勢を維持できてしまう。局後の感想だと1図の△1五歩は永瀬の探索範囲から外れていたようなのだが、この手を最善手とするAIもあるようなので、永瀬のように行き届いた事前研究を行う棋士でも全部の変化を網羅しきれないようである。

 

 1図から8手経過した2図では攻守が入れ替わっている。永瀬はこの辺りの進行が不本意だったようで、2枚の桂馬が被っているところなどさもありなん、竜の位置もよくない。1図での▲4五桂がやや前のめりすぎたか? この頃の解説は糸谷、西田だったが、両名とも持ち時間を措けば後手を持ちたいという言いぶりであった。

 

 

 2図で解説陣(この頃は佐藤、羽生)は▲6六歩は△5七銀と打たれるので別の手を探そうというモードだったが、永瀬は一定の時間を投入して▲6六歩を決行。△5七銀には▲6七金右で耐えているという判断か。△4九角に▲1八竜と1五への移動を含みの回避がいい感じで、対する藤井の△3六銀も羽生、佐藤が全く予想しなかった着手。ノーマル能力の持ち主でしかない私では尚更・・・一生かけても候補手にすら上がることはない。

 

 本局の永瀬は秒読みの中でも彼我の玉への距離感が精密だったようで、3図の角打ちは△6六桂が見えるので「おお!」というところだが、打たれても玉を8八に寄って支障ない。佐藤、羽生が検討していた▲同金△同馬▲6四角成でも先手玉は詰まないので、やはり先手が勝ちのようである。

 

 ここで藤井は金を守りつつ桂馬取りになる△5四馬を選択。合理的な着手に思えるのだが、▲6五歩△同金▲6六歩と打たれて形勢悪化を感じたという感想だった。正着は△6三歩で、金をしっかり支えつつ△6六桂を残すところが急所らしいのだが、この着手選択をあれこれいえる人類っているの? 断言するが10年前なら「敗着不明」で整理されたと思う。▲6五歩△同金▲6六歩に△7六金と進出したところで▲6五銀と両取り。△4五馬が桂を取りながらの竜取りの感触がよさそうなのだが(佐藤康光がこの局面で▲7六銀△1八馬の進行だと後手の飛車打ちに先手は桂馬で合い駒するしかないが、先手玉周辺の形が良くないと指摘していた。私もこの局面の時点では外出先で音声なしで局面にアクセスしていただのが、同様に読んでいて、これはまだまだ形勢不明か微差だろうと見ていたのだが)、ここでの▲1五竜が素晴らしい。

 

 

 ここで珍しく藤井が誤り、△4八銀不成としたため▲6四桂以下一気に寄り型になってしまった。△1四香と1四歩を除去しておけばまだまだ戦えたらしいのだが・・・・これも凄い粘り腰ではあるが、トップはこういう手まで一分未満で選択しないといけないのか。えぐいです。

 

 現時点では藤井とどうにか戦える棋士は二人しかいないようだ。(※王位戦、棋聖戦で敗退した佐々木大地は三人目にいたのだが、朝日で西山、順位戦で佐藤秀に敗北したのをみては安定的な上位棋士ともいいにくいと評価をやや下げた) 永瀬は名人戦に出てくるのは星勘定だとやはりしんどいが、出れば他の棋士よりは盛り上がるだろうと思う。