昨日は将棋A級順位戦8回戦一斉対局だった。結果は既報の通りで、豊島がよもやの7回戦、8回戦2連敗で挑戦権を取り切れず挑戦争いは永瀬まで加わって3人の争い。降級戦は渡辺のみが解放されただけでまだ6人の首がつながっていない。

 

 7回戦で永瀬が稲葉に逆転負けを食った段階では7回戦待ちだった豊島とは星3つの差がついていたのが、まさに2週間未満で急接近。永瀬が頑張ったというよりも豊島がまたもやっていますか~という心証が濃い。豊島のA級順位戦第1期目でよもやの挑戦権逃しをしたことも思い出す。(76期のこと。5連勝で発進し、この時点で星2個のリードだったが、後半グダグダになり、プレイオフになった→パラマスのプレイオフ3連勝したが羽生に負けて、雄図は潰えた) 今期、勝ち抜いたとしてもド急所の7回戦、8回戦で連敗する棋士が藤井に勝てるとは思えない。ファンもこういう状況には慣れてしまっているかもしれないが、すごい隔靴掻痒感だ。

 

 それと菅井竜也。ひどい負け方ではあった。

 

 

 1図の段階で後手の攻めは既に細いが、いくらなんでも△5七銀はなかろう。▲4九飛△5八銀成▲3九飛に対する△4八成銀の感触がひどくて、正統派大局観の持ち主であれば一秒も考えない手順である。直前で菅井は長考をしておらず、予定の手順だったのだろうか。しかし、ここからは急激に形勢は悪化し、19時台で投了。王将戦の感想戦で菅井が無口すぎるのが話題になっているが、この日も感想戦は10分程度だったということである。この人も12月中旬に王将戦挑戦を決め、順位戦でも豊島を追走していた頃とは顕著な様変わり振りで、メンタルが相当に傷んでしまったのだろうかと懸念されるレベルである。

 

 広瀬ー稲葉は先手で対稲葉戦の相性もいい広瀬が順調にペースを握り続け、無難に押し切る。広瀬は崖っぷちからの連勝。但し最終戦は合口のよくない渡辺戦でしかも後手番である。勝てばいいだけのことだが・・・

 

 残り3局は熱戦。この日のベスト妙手は間違いなく2図の△7六角。佐々木勇気はよもやの強打を予想していなかったのだろう、残り時間全部(13分)を投入して逃れを探したが、既に斬られていた。私は永瀬の棋譜を諳んじれるほどフォローしていないのだが、この手は数年が経過しても覚えていることは約束できる。本当に素晴らしい一着だった。王座戦敗退の残留思念を抱えて、名人戦挑戦となれば、他の棋士が挑戦するよりは興趣があるやもしれない。

 

 

 中村―渡辺はなんだかんだいっても渡辺が勝つのだろうな~と観戦していたが、中村の手がよく伸びる。全着手正解手というわけではなかったようだが、駒が前に出続け押し切った。この2人、これで通算対局数が4局目ということだが、実に意外。中村は本局の勝利を入れてもまだ通算で401勝でしかなく、案外に勝っていないことが分かる。私はリーグ戦開始前時点では中村降級を予想していたのだが、これは覆るかもしれない。但し、次戦は永瀬戦でしかも後手番である。

 

 一番最後まで続いたのは豊島ー斎藤で、先手番豊島でもあり、まぁ、豊島が勝つだろうな、と予想した。3図は飛車取りを手抜いて香車で後手の飛車を取ったところ。豊島はこの手に残り時間全部(10分)をつぎ込んだ。棋譜を並べていた私は『えー、飛車で歩を払っておけば、後手からのとっかりがなさそうだけど、こんな強い手を指さないといけない局面なの?』と手が止まる。

 

 プロのような深い読みはできないが、普通はそう考える。案の定というか△8八金を食う。ここからは最早指運頼み。▲6九玉に斎藤は△7八金寄の追撃だが、これは8七金を先手の質に残した悪手だという。△7八金上なら質駒の金がないので、△8一玉と成香を除去して安全勝ちだった。。。というのは後知恵の賜物で解説をしていた糸谷もここまで局面が煮詰まると訳が分からなかったようで、悪手=混乱とか実力低下ということではない。本譜は続く▲5九玉△2六角に合い駒を▲4八歩ではなく▲3七香としたため4八が空いたままになり、ここに後手が捨て駒を打てる余地が発生、先手玉が詰んでしまった。

 

 豊島、運がなかったな、と総括して支障はないのだが、対藤井だと藤井が指運頼みの将棋品質でないので、豊島や斎藤でも敗北イメージしか出ないままである。年度が終わりに近くなるのに、勝率が850を越える天下人がいることが繰り返しになるが信じられない。自分が85%勝てる相手となると、級位者になる。それくらいの差が藤井とその他世界ではあるということが、もう一体何を観ているのだろう?というレベルになってしまうのだ。