昨日今日で行われた将棋竜王戦第4局は藤井が勝利し、通算4連勝で竜王防衛。表題のようにタイトル戦19連覇で大山康晴の従来最高記録タイとなった。これだけの実力差が他棋士とあるのであれば、大山の通算タイトル獲得数には8年、羽生の現時点のタイトル総獲得数に10年で追いつくことになる。キャリア終了時点で200期くらいになってもおかしくないのではないか。。。と呟いても、まるっきりの冗談事とも思えないくらいである。この人がチェス、囲碁その他のブレインスポーツを行えば、やはり頂点に短期間で行ってしまうのではないか、詰将棋に専念すれば先人の名作を凌ぐものを作り出すだろう、くらいのポテンシャルを感じる。本局の超絶詰将棋のような終局振りをみれば、そう感じて当然で、『詰むや詰まざるや』を越える作品集を整えても不思議でも何でもない。

 

 まずは総括感想。

 

・対局終了後の感想戦がこちらが急所なのでは?(2図)と思うところをほぼパス。1時間くらい5図周辺をつつきましたところで、立会人の渡辺明が介入して2図の両者の所見を訊くが、盤面ではついに検討されず符合であれこれいうだけ。Abema解説の深浦も聴き取れないくらいで、観戦側からすれば激しくストレスが残った。この両者には我々とは違うものが見えているのだなぁ。

・記者会見前に旅館の総支配人(男性)から花束贈呈。。。いや、やはりここは女将さん(いないのかな?)、類似した立場の方がよいでしょう。お花も非常に地味で薄青の桔梗(?)以外はほぼ緑で超地味。藤井の和服が淡緑なので、『スナフキンみたい』と妻が言っていた。

・地元記者が食べ物の感想を訊くのがいい味であった。記者さんは指し手のことは分からないので、こういうのでいいのではないかと思う。

 

 手の話だが、感想戦では74手目の△5四銀までは両者は『当然』という風情で一瀉千里に並べており、まずはこの研究振りが衝撃。序盤の伊藤の金、桂、飛車、銀の順番での動かし方等、この一点に絞った解説だけでも啓蒙が進みそうだが、そういう機会は恐らくはないのだろうなぁ。

 

 1図の▲2四飛は『かなり以上』の踏み込み。その前の▲1四角もAI推奨手ながら▲2三とではダメなの?と素人ながら思うのだが・・・1筋、2筋の先手の戦力が渋滞しているが、現実に香車得ではある。本譜は後手に飛車を渡し、金得ながら手番も後手に移動し、玉頭に傷もありということで、ここまでハイリスクな手を選択する必要があるの?と感じるのだが、藤井が指した以上は何らかの成算はあったのだろう。ただAIの評価は否定的であり、そこは措いておいても人間目線でも後手を持ちたい人が大半だろう。後手玉は▲4二歩成の余裕を与えずに手番を維持しながら攻撃を続けられればよく、それだけの態勢になっているように見える。ただ藤井はそうは思っていなかったわけで、詳しい所見を知りたいものだ。

 

 ここで封じ手になる。封じ手は△同歩の一手(△8六歩を入れることもあり得るが、封じ手でそんなややこしいことをする必要はない)であり、▲3二角成の局面での対応を伊藤は一晩じっくり検討できる。8筋の戦力と持ち駒の飛車、銀、桂馬をミックスすれば相当に強力、持続力のある攻勢を取れそうである。消費時間も2時間余分に残している。伊藤の初勝利を予想した将棋ファンはかなり多かったはずである。

 

 しかしそうはならなかった。▲3二角成に対し、伊藤は△6七銀と置いたのだが、AIを引用するまでもなく普通に腕自慢のアマでも△8六歩と一本は突き出しそう。▲同銀だと△6八飛があるので▲同金となり、そこで△6七銀とすれば▲6九金を強制でき、そこで△8五桂打の継続手があった。本譜は歩の突き捨てがないので、7七銀がそのまま居残り、△6七銀▲6九金に△8六歩と突いても今度は▲同銀と取れてしまう。伊藤は△6七銀を7分で指しており、予定の進行だったようだが、大きな分かれ道だったはずだ。(その割に感想戦ではほぼ触れられなかったのが不思議だ)

 

 ▲6九金の受けに対し△2九飛と打つが▲5九桂と銀当たりに受けられる。ここで△3九飛成とできないのであればおかしいのだが、私なりに調べると▲5八銀という受けがあるようである。(自力では指せません) そこで△8六香に期待して△1九飛成とするのだが、▲4二歩成と玉側にと金が出現した上に▲4九歩の底歩が利くようになってはどうみても形勢が悪化している。ここで伊藤が凝固した。

 

 

 記録上は2時間28分、昼食休憩も加えれば3時間28分の大長考。指し手を待つ間、内心で突っ込みまくる。『ここで固まるのはおかしいでしょ?  封じ手から7手しか経過してないんだよ? この局面を想定できない君じゃないでしょ? ここで時間をこんなに使っていいの? 永瀬や豊島がどういう状況で藤井に打っ棄られたか覚えているでしょ? ここで考え込むのは試験課題を事前に教えてもらっていて、準備期間1か月あって、テストの本番でまた考えているのと同じじゃん!! 午前の進行がここまで激オソになるんだったら、整体にでもいけばよかったよ~(明日、世田谷246ハーフマラソンなの)』等々。大長考の間に立会人の渡辺がAbemaに登場した際、「手が進んでないんですか? △8六香以外ないけどな~」という趣旨の発言をバッサリと述べ、ウニラムネを飲んでいたシーンが妙に受けたものである。

 

 感想戦では4図を中心にあれこれ議論をしていたが、後手の攻撃陣は強力ながら、先手の守備駒も多く、解しにかかれば▲5二との反撃がきつく、良い攻めはなかったようだ。ただ、クリンチはできなくなかったかもしれないような話しぶりではあった。4図でやれると判断できる藤井の能力は流石である。本局は相手の攻めに対応しているだけで形勢が良化しており、しかも時間は大して消費もしておらず、本当に倒しにくい相手である。

 

 伊藤は4図で△8四桂と捻りだす。これはこれで迫力のある手で、この手を見極めるための2時間28分の長考だったのだろうが、▲4九歩と防がれると竜の機能が一気に低下してしまい、懸念がまさに現実化した感がある。それでも△7六桂と跳ね▲7九玉と逃げた5図が最後の勝負所だったようだ。

 

 

 後手は先手に駒を渡さずに攻めないといけない。渡すと▲5二とからの寄り身を食ってしまう。本譜は△8七香成~△8八金と駒を大量に渡したので、先手必勝となったのだが、まだしも△4七歩と叩いて先手から動いてもらう方がまだしもだった。

 

 それにしても最後の詰ませ方は凄まじい。伝説になるだろうな。119手目の▲8四銀は歩でもいいと思うのだが、銀だと本譜のように一枚も駒が余らない、実に詰将棋な詰め手順になる。そこまで読んでの本譜の手順の選択であろうか。一体、どれだけの大容量エンジンなのだろうか。

 

 

 竜王戦が4局で終わり、年内の藤井の対局は観戦できて早指しの数局くらいか。日本シリーズの決勝はまずは必見ですね。

 

 敗れた伊藤だが、能力の高さは良く分かった。敗北しても評価は高まっただろう。来期竜王戦は1組にジャンプアップする。連続挑戦になっても苦情は出ないだけの力量の持ち主で、今後も私はモニターするつもりだ。