今日ベトナムで対局が行われた将棋棋聖戦第1局は藤井が終盤抜け出して先勝した。佐々木にも何回か好機はあったようだが、上手くものにできなかったか。感想戦で両者ともに寡黙で一体何が語られているのかサッパリであり、対局の真相が良く分からないまま、レビューを書かせていただきます。

 

 注目の手番だが藤井先番。5番勝負で藤井先番だと、藤井が先手勝利、後手でたまにある敗北でも3局終わって2勝1敗になっている可能性が高い。逆目であれば対戦相手にも番勝負の展望が少しはでてくるものだが、王将戦からずっと藤井が振り駒で勝っている。急所だったA級プレイオフも藤井先手だったし、神に嘉されている感が強いわ。

 

 将棋の内容であるが、1図まではあっという間に進行した。7二金がひどい形だが、後手の玉飛接近戦闘を強いており、見た目ほど悪くないという理屈だろうか。藤井の事前研究には遺漏がないようで、やはりこの相手に角換わり系は損ではないかと思う。

 

 

 形勢は微差ではあるが、佐々木の玉飛が不安定であり、実戦的にも指しやすいのは藤井とみていた。2図で普通の人は▲3八金と引き、△5七歩成▲同金△同角成▲同玉△5六歩の進行を想定するとしたもので、藤井は▲6三と△4二玉を挟んでそのように着手したのだが、ここで▲5六銀が決め手級の強手であったという。現時点(5日22時35分)では実況サイトにはこの手順は紹介されていないが、指されてみればなるほど鮮烈で、△同桂▲同金と宙ぶらりんの飛車を攻めれば、そのまま後手玉への攻撃になっている。△3五飛と展開しても▲3六歩と追撃すれば△3四飛は美味しく飛車を取られてしまう。といって、△3三飛だと▲6三とを決めなかった効果で▲4五桂がある。

 

 

 3図で、ここでも普通の人は△5七角と形を決めておきたくなるのだが、佐々木は響きが薄いと見たのか△3五飛として△4五角のスペースを作った。しかし▲5八歩と受けられると先手玉がかなり遠くなった感がある。

 

 

 これで藤井の勝利はほぼ堅いとおもったところで、4図で▲5二と△同銀▲同金△同玉▲6七銀と思いもよらない進行。粘りに出ているような手順である。ここも普通の人は▲5三角と打ちそうで△3三玉のところで▲3四歩と打ってさて後手はどうするかな、という流れだろうか。△同銀の時に何かあるか?でノーマルアマには無理だが▲4四角成△同玉▲5六桂と後手の角の利きを遮断して△3三玉に▲3四桂と取れば勝てるのだが、藤井を以てしてもこの手順は出てこなかったのだろうか。であれば、本譜の順も負けにしたわけではないので、ある種の合理性はある。最善手ではないにしても、大山康晴流の「結論を急がない」将棋の建付けかもしれない、等と思ったものである。(藤井以外の人の指し手だと「ぬる!」と一刀両断にしそうだが)

 

 これで佐々木にまた機会がきたのだが、5図の△8六歩が尚早で▲1七角の痛打を食って、本当に負けになった。ここも普通の人は飛車の可動域を広げる△4三金を指をしならせて指しそうだが、プロなら8筋の工作をしたくなるものなのだろうか。惜しい逸機であった。

 

 

 普通のアマには分かりにくい終盤ではあった。佐々木は不利な後手番ながら力量は見せたと思う。まだタイトル戦を藤井と戦っていない棋士の中でそれなりに戦えそうなのはもはや佐々木大地と大橋くらいといってもいいところで、次局の先番は一局の勝敗を越えた彼の棋界における信用を問われる一戦となる。