将棋叡王戦第4局。昨日は指し直し第2局を取り上げたので、今日は第1局をレビューします。

 仕掛けたところでは居飛車穴熊目線では負けるとはとても思えない。若干の駒損は甘受しても飛車を成り込めば、どうにかなりそう。角桂交換くらいでも持ち歩があれば8六に桂馬を設置してからの攻め筋は作れそう。4枚で守られた先手守備陣を後手が攻めればある程度の駒が戻ってくるので、先手が攻撃力に不足することはなさそう、と目算が立っている。



 ところが菅井はこういう戦略的劣勢をどうにかしてしまのである。藤井聡太は対角換わり、矢倉ほど対振飛車の経験値がないためか? 中盤で疑問手が続く。▲5五歩と金をよろめかせ、▲6四歩でその不在を衝く藤井だが、よろめいたはずの金が5六に銀取りで移動してしまい、上手くいっていない。先手陣も直前の▲6六銀直が仇になってしまっている。




 2図で菅井は△6六金。実況サイトには『自然な金寄りだが、代えて△2三歩もあった。▲同飛成△4五角とし、△6七金を狙う筋。△4五角に▲3四角△同角▲同竜△6六金▲3五竜△7七金▲4六竜△7八金▲同金△6七歩が並べられた。これは本譜よりまさったという。』とある。
 
 この解説の意味が私にはよく分からない。△4五角に▲3四角△同角▲同竜△6六金に▲3五竜ではなく本譜同様に▲6六同銀とすると、本譜が生飛車のままであるのに比較して変化手順では竜になっているし、歩を献上もしているので、明白に損である。この変化は本手順ではないだろう。△4五角に▲3四角△同角▲同竜に△4五角を再度打つのは、▲同竜で手番が移動し、△同桂▲5六銀△同飛に▲6三角と打ち込まれて先手が勝てるでしょう。(この変化はAbemaでも取り上げられていた) もう少し合理的な理由が△2三歩にはあるはずだが、私の能力では推知できない。

 

 3図の▲6三銀では▲2一飛上成がAbema AIの推奨。普通の感覚の人間には思いもしない手だが、なるほどノーガードで打ち合えば先手の方が速い。こういうところで踏み込めるのが藤井だが、さすがに全ケースでそういうわけでもないようで、▲6三銀であった。当然のかわしである△6一銀にはこれもAIは超強硬の▲同飛成△同金▲2一飛成(4図)を推奨。ここでいきなりギアを上げられる人はおるまい。。。と思ったところ藤井はこの手順は採択。その前の▲4一飛といい、やはりこの人は格段である。来年の今頃には3図で▲2一飛上成を決断出来ている可能性は高い。

 


 

 4図。ここで△7一金打の一手にしかみえないのだが、本手は△7一飛!だそうで、これにはうーんです。飛車の横利きがあるがゆえに▲7二銀の強攻にも金以上に耐性がある。。。普通の人は金打ちでしょうが、この理屈を覚えておくともしかすると穴熊党はいいことがあるかもしれない。

 最後の千日手の局面(5図)で菅井は△6一歩としなかったことを後悔していたが、これで負けるような手順が脳裏を横切ったのだろうか。▲8二銀成△同玉の局面で先手側に良い手は見当たらない。▲7八金打が本能的な指し手だが、△5六馬で6五金の処遇に困りそう。

 

 

 第3局といい、後手番でここまで藤井と戦える棋士私は知らない。振飛車に再度取り組む棋士も増えるかもしれない。仲間内やファンの間での評価は鰻登りであろう。菅井の戦いぶりはまさに敢闘であった。