今週は名人戦第4局以外にも竜王戦の1組、2組の決勝、本日の王座戦の渡辺―沢田と重要対局があった。しかし今日触れる将棋はこれらではない。NHK杯戦の勝又-伊藤匠戦である。

 

 名人戦第4局の裏で放送されていた本局は案外に熱戦となった。放送終了間際まで形勢不明で推移し、勝又ファンはかなりエキサイトしたのかも。私も名人戦1日目午前で藤井が大長考に入っていたので、本局終盤はきっちりと放送時間で観戦したのだが、「評価値は互角でも、これを後手が攻め切るのは難しいのでは?」と感じてはいた。

 

 まず1図。ここで△8八歩成▲同玉△6六銀という凄まじい寄せがあることをAIは指摘するのだが、このグレードの寄せを指せるわけがない。本譜の進行を選択した勝又を批判する人はおるまい。

 

 問題は2図。

 

 一見して、飛車で角を取り、その角を3八に打ち込み、飛車が逃げる、角を4七に成り返り銀取り、と先手の攻めが続く。先を読み切れないが、まぁ、こう指すところか、飛車を渡しても直ぐには後手玉は詰まないものね、と自分も秒読みのつもりで手順を考える。あるいは△3八角を保留して△6四角といったん溜めておくのもありそう。この二拓は考えたいか。

 ところが勝又はまず△8七銀打。▲6八玉と寄られると上記の手順の△4七角成が銀取りにならないので損。放送の残り時間を鑑みると、これで勝敗は見えた。伊藤は意外にも▲6九玉! これで△4七角成が王手銀取り桂取りになるので、相駒されたところで桂馬を行きがけの駄賃として取れる。まだまだ戦えるか?と思ったところで、よもやよもやの△7六銀不成!!!

 何この手? 局後のインタビューで「時間を節約しようとして不成にしてしまった」と慌てての出来事であることを告白していた。伊藤匠相手によく戦ったとも思う、とも言ってもいたが悔しそうでもあった。ベテラン対新鋭だとありがちかなぁ、と溜息をついてしまった。『ベテランが気骨と鍛えを示した』事例が話題になることが極々稀にあるが(羽生が剣持にやられたとか中原が星田にやられたとか)、これは本当に極稀な事象で大抵は新鋭がスタミナで勝るのである。

 

 この現象は、アマの大会でもよくあることで、新鋭若年の実力者がたまたま上手く指せずに、中高年のアマに押し込まれるながらも結局は勝ち切る。。。勝ち切れない嘗ての実力中高年は劣化に歯噛みする構図。自分自身にも当てはまる事象であり(私自身は最近大会に出場できていないのだが、唸るしか私はなかった。

 

 伊藤匠について話すと、この将棋は些かファン目線でも不満。これでは藤井には勝てない。ここから糸谷、稲葉に勝てば、準々決勝で漸く藤井聡太と戦える。前期順位戦の着陸失敗といい、真っ直ぐな成長曲線から外れた感もあるので(とはいえ、今年度の成績は5勝1敗)、まずは軌道を元に戻してほしいと思う。