今日、将棋王位戦挑戦者決定戦が行われ、佐々木大地が羽生善治に快勝して挑戦。棋聖戦と合わせて12番勝負を藤井聡太と戦うこととなった。今日の将棋などは安全運転に徹して勝ち切っており、以前のエントリーでも述べたが分厚い棋風がまさに旬を迎えつつある感もある。藤井に勝てるとはいわないが、複数勝利を収める可能性は相当にあるのではないか。

 

 先番は佐々木で戦型は相掛かり。1図が『お!』というところで、まず歩を突っかけて、角筋を通し(いわゆる「利かし」が入った)、銀を繰り出していく手順は洗練されている。洗練されているのだが、ではポイントを稼いだかといえば微妙なところで、歩越し飛車、桂馬香車の不参加、歩を使える筋も少ないところで、攻めの迫力はイマイチだし、先手が直ぐに攻めてくれてカウンターを狙うような建付けでもない。但し、△5四銀の局面で佐々木に1時間近い長考を強いることができて、将棋ではなく勝負という点では戦果はあったというところか。

 

 

 以下羽生が手順を尽くして攻撃をかける。6筋突き捨て→銀のぶっつけ→当たりになった角を放置しての銀の割打ち→敵の銀打ちを空振りにさせる△8七歩。本当に一生懸命に手を作っているのが分かるのだが、少し離れて眺めてみると、『全盛期の羽生はこういう攻撃をする人だったかな?』と感慨も湧いてくる。

 

 

 飛車角交換に持ち込んで悪くはないのだが、結局は成銀が残ってしまい、先手の中央から左側に展開する金銀に比べると見劣りするのである。

 

 午後3時頃に局面にアクセスすると3図だった。AI評価は57対43くらいだったと記憶している。桂馬香車を拾えそうな後手もやりようがありそうだが、こういう評価か。。。と呟いた。

 

 ここで▲6四歩と普通の指し手であればいきそうだが、佐々木は玉を避難させ、桂馬に紐をつける▲7八玉。なるほど。。。そういう棋風でしたな。。。

 

 形勢は人間目線では先手優勢、AI評価では接戦で推移し、4図は18時半過ぎの局面。この銀引きがいかにも佐々木らしい。何となく激辛と評された頃(名人になる直前)の丸山忠久を思い出させる。残り時間も接近する中、羽生は残り時間では佐々木より少なくなる13分考えて△8二香。直接的な狙いがないのに持ち駒を盤に置くのはクリンチしたいのだろうか。ただ、クリンチであれば△3六成銀等でお茶を濁す方がよかったようである。ただ、この成銀は無効手にしかみえず、いかにも指しにくい。この将棋、羽生の繰り出す攻撃が効いている感触がほとんどなかった。

 

 

 佐々木の▲6五銀に対しての△5五飛も相当に違和感のある手で、普通は桂馬を5五に跳ねるか△6七歩か。(この手は歩切れになるので指しにくいが) この二手で羽生は形勢を大きく損じ、その後は機会は回ってこなかった。

 

 佐々木の指し回しといえば、相手の手に追随して効率的に戦果を収め、自玉の安全第一、駒の効率重視で、いかにも今風である。ローリスク志向が藤井にどれくらい通じるのかは定かでないが、指し手品質のブレのなさは高く評価できる。繰り返しだが、番勝負もそれなりに戦えると思う。

 

 羽生は王将戦に続いての対藤井番勝負は叶わなかったが、竜王戦では十分な機会があり、こちらの挑戦を期待するファンは相当に多いだろう。昨年度の絶不調は一掃され、実力棋士としての面目は施している。