今日行われた将棋叡王戦第3局はよもやよもやの大逆転だった。今日の私は本局を午後3時半以降はスマホでAbemaを視聴してフォロー(音声なし)、午後5時前に帰宅して音声付きの視聴し、藤井の▲6六飛に「え~!」と絶叫⇒後手菅井玉への距離がありすぎる状況で菅井必勝を確信⇒午後6時10分に用事があって外出(この時点では『菅井快勝、藤井聡太初めての角番』の予定稿を脳内で書きつつあった)⇒午後7時過ぎに帰宅すると『藤井勝利』を知り、再度「えー!」と絶叫・・・という顛末であった。

 

 中盤から違和感のある手が多くて、様々消化しきれていないのだが、菅井目線で見れば実に惜しい敗北だった。藤井聡太からタイトル奪取のシナリオを描けたのは今年の2月の王将戦での羽生以来(第5局)だが、その時よりも勝ち味が今回はあった。まずは振り返ってみたい。

 

 私が午後に初めてアクセスした局面は1図。評価値は互角だが、居飛車穴熊歴の長い私目線だと先手を持って負ける気がしない。後手の攻撃部隊活性化の道筋が全く見えない。盤面左翼で駒を次々とぶつけていけば先手の駒が残り、勝てるはずだ。

 

 ところが、△7四金はともかくとして▲3五歩△同歩の応酬が全く理解できない。いや、この二人が指すのだから何か合理的な理由があるのだろうが、▲3五歩は△同銀で後手の角筋が通ってしまう。銀が戦線から遠ざかるとはいえ、敵主砲が自玉を間接的にではあるが射程に入れているのは嬉しくない。にもかかわらず菅井は△同歩で▲3四歩を許容する。これで藤井の言い分が通り、▲6六銀と銀を前線に繰り出す。飛車の6筋展開も約束されており、悪くないはず。。。と感じたのだが、実際にはそこまで先手の雰囲気が良いわけでもなかった。

 

 2図でAbemaのAIは▲7一金を推奨していた。△5一金と寄るだろうが、そこでどうするのか? ▲4三歩だと駒台に金がないので△3二飛と寄れる。そこで継続手が何なのか私なりに脳を絞るが▲6四成銀しか思いつかない。明確に先手よしではない。まだ難しい。午後5時を過ぎて後手番で藤井相手に形勢を互角に維持できた棋士がかつてどれだけいただろう。しかも不利とされる振飛車を採用しての奮戦ぶり。私の中で菅井の評価がメキメキと上がりつつあった。

 

 本譜は▲4三歩を先行、金が持ち駒にあるので△4一飛の一手に▲6二成銀と突っ込むが香車を既に確保済みの菅井は△6四香を返し、形勢はイーブンのまま。このまま長引けば後手の大駒が戦場に来着し始める。藤井にとってはやや慌ただしい。

 

 問題は3図で、本稿の頭で先手目線で後手の課題として述べた後手攻撃陣の渋滞が解消されている。菅井の指し回しが見事である。これは▲6二と△7八桂成以下7七で金銀の打替えが発生し千日手か。。。菅井目線では十分以上の戦果ではあるな。これで指し直しは菅井先手、次の対局も菅井先手。藤井相手にいい流れになりつつある。

 

 こういう相穴熊の将棋だと繰り出す手筋が割とシンプルであり藤井の将棋の建付けには合わないか。また叡王戦はチェスクロック計時なので他の棋戦のように59秒まで読まれての着手ー時間消費進行せず・・・を使えない。考えれば考えるだけ時間が失われる。名人戦に比べても藤井にとっては望ましくない建付けか。まぁ、ここまで時間を消費する前に判断をすればいいだけといわれればそれまでなのだが

 

 ところが、本譜は▲同飛だったので、私は「えー?」となったわけである。喜んでの△同角に▲6九香を打ち返すが△8八角成まで入ってしまっては藤井に理があるわけがない。珍しい乱調である。飛車を切っても有力な攻撃手はなく相変わらず千日手含みに粘るのでは何をしているのか訳が分からない。菅井がいきなり優勢になった。千日手でも良かったのが勝ちまで見込める。望外である。

 

 4図のところで私は外出のタイミングになったのだが、この歩打ちが痛いなぁ。▲同香が当然と思ったが、帰宅後棋譜を確認すると▲同金だった。『あれ~これだと△6三金とと金を払われてしまうのでは? ▲5二角は相当に手抜きが効きそうだが? そうでもなかったのかな? でも△6七歩が激痛にならないのかな・・・』 単純に手数比較をすると後手玉は▲4一角成/▲6三馬/▲6一飛で必至。先手玉は△6八歩成/△7八とで必至。つまりは攻め合ってしまえば、先手が勝てない。しかし先手が守れば後手陣の修復が入るので、やはり勝てない。つまりは逸機か。

 

 金駒だけでは攻め切れないとみて△2九飛成と小駒を補充する菅井。そこで5図の角打ちが投下され、先手玉がいきなりみえなくなった。ここで△5八金を推奨するAIがいるらしいのだが、この手を指せる人間はまずいないだろう。菅井も目が見えなくなったか△9五歩。相当に変な手だが、具体的な対案を思いつかない。藤井は▲7一歩成。これも△同飛だとド急所の7筋に後手飛車が展開してきて損なはずだが、菅井は構わず△9六歩。。。▲8一と△同飛となってしまうと後手の9筋が弱体化してしまい、9筋の取り込みもマイナスでしかなく、形勢は完全に逆転か。この応酬で菅井も持ち時間を使い切ってしまう。あっという間の出来事だったようだ。。。と私は思い込んだのだが、ここからもまだ紆余曲折があった。

 

 6図で菅井は△6九竜としたのだが、もしかするともう心が折れていたのだろうか。ここでは△9五金と後手玉上空を補強すればまだまだ戦えたという説があるようで、教えてもらえば『なるほど! こうやって将棋は頑張るものか!』と納得はするのだが、秒読みで指せる気が全くしない。人間の勝負としては4図辺りがキーだったのではないか。つまりは人間目線ではそこまで菅井必勝でもなかったのかもしれない。

 

 

 

 これで防衛まで藤井はあと1勝。案外、この番勝負は手こずっている。次戦は菅井先手なので、まだまだサプライズがあるかもしれない。菅井の戦いぶりは十分に将棋ファンの負託に応えるものとなっている。