将棋名人戦第1局を改めて並べて、自分なりの検討を加えてみた。

 局後の感想を読む限り、藤井は随分と控え目であるのに対し、渡辺は自身の攻めの切っ先が相手に届ききっていない感触を述べていて、こちらの方が率直であると感じる。リアルタイム観戦中も、昨日のエントリーで書いたように、先手の7九玉寄りを咎めるかのような△9五歩と居玉の後手を2、3筋から銀を押し上げて攻める先手の攻め足の速さの相違が何となく感じられた。  

 



 昨日の午前中は手の進みが遅い。AI評価はほぼ互角だが、先手がよい、という判定はなかったのではないか。そして人間目線でも後手の方が速く見え、これで後手の指し手が藤井聡太とくれば、指しやすさを形勢差として具体化していく蓋然性が高そう。。。前例のない戦形に持ち込んでも、互角以上にできない渡辺の心境が思い遣られる。。ただ藤井が歩を補充するため△3五歩と先手の銀を進出させてくれたので、角銀が捌けている。存分に戦えそうではあった。ただ銀交換の副作用は直ぐにやってくる。

 


 まずは金頭に一発。(※ここで▲7七銀が好手と主張している人がいるのだが、▲7七金ならともかくAIの支援なしに指せる手ではない。) ▲同金に△8八歩がいかにも厳しい。私の能力だと、本譜と同じ▲同金△8七銀が厳しく見えてしまい、「▲同金ではなく▲8七銀と駒損甘受ではどうだろう」と考えたのだが、実況時には△8七銀に対し▲9七銀の受けが表示されていた。なるほど、これも根性はあるが、竜が8筋にできてしまう。。。まぁ、でもこうするところか、とその時は納得したのだが、終局後にAI予想手を見ると▲8七銀の駒損甘受がよかったらしい。無能力者でも偶々正解に辿り着くこともあるものだ。

 後手に竜ができてしまい、△8八歩を防ぐために▲8八歩としても△8七歩の追い打ちがくる。これは厳しい・・・もう手はないと私は思いこんだのだが、何とここで▲7七銀という受けがあったという。。。

 

 

 これ、人間に見えるの? いや、指されてみれば、意図、趣旨、効果は理解できるのだが、桂馬の利きに銀を動かすのか。ところがこの銀上がりを藤井は読んでいたし、渡辺も目線には入っていたという。渡辺は以下△5七桂不成▲5九玉△1五角がきつくて▲2六歩としても△同角でやる気が出ないという趣旨の感想だったようなのだが、▲2六歩ではなく▲3七香であればどうなのか・・・最後の持ち歩を行使して△3六歩でやはり後手よしか。

 そもそも本譜の▲2一馬の攻め合いだと攻撃力と敵玉との間合いの格差が明白で、そちらこそやる気が出ないのではないかと感じるが・・・渡辺の判断を知りたいものである。

 戻って△8八歩では△5七桂成がよかったということになるが、ここまでの精度を極めないといけないトップレベルの将棋の息苦しさというか苛烈さよ。
 
結果、形勢は一気に傾き、△1五角〜△4八金と猛攻続行モードの後は一転して△4二角〜△5三銀〜△5二銀の守備銀つるべ打ちの手堅さ披露と緩急自在の藤井の指し回し。居玉だったはずなのに結構強化されてしまい、寄付きがみえない。

 

 後手番ながら一度も不利にならないまま勝ち切った藤井聡太。やはり前進を止める者はいない。