今日、叡王戦挑戦者決定戦があった。永瀬-菅井で永瀬が勝つのかな・・・と予想していたが、菅井の勝利となり、藤井―菅井の初タイトル戦となった。15時30分頃は『まだまだ難しいな』と局面を見ていたが、17時過ぎには投了になっていて、かなり驚いた。その辺の急展開振りを振り返ろうと思います。

 

 戦型はゴキゲン中飛車のはずが角交換向飛車のような展開となり、先手が馬を作り、その馬を殺される代償に角と歩を獲得するというよく見る手順に収斂した。私はこの形の後手を持ってそれなりの局数を指したことがあるのだが(一時は振り飛車側の方がよいという評価もあったはず)、持ち駒になった金の利用法が具体的にみえにくいな・・・というのが正直な評価である。

 

 この将棋も結局、菅井は持ち駒の金を自陣に埋め込んだ。一歩損だし、誰でも『作戦失敗』と評価するだろうし、実際、実況解説の村田も『金を手放して菅井さんとしては作戦失敗に見えますが、1歩入手すれば△4五歩がある形なので、まだ主張は残っています。』とはいっているものの、これはある程度の忖度が入っていそうで、持ち駒に歩がないのだから『あなた、何を言っているの?』というところ。

 

 その後、菅井はさらに角を自陣投入。。。これでどういう目算があるのかと不思議だが・・・2図まで行くと、先手は地下鉄飛車が自陣を引き締めつつ9筋襲撃の構えを見せ、飛車の対比では先手よし。もらった香車が5筋を制圧しており対比されるべき後手の成桂よりは働いている。玉の堅さも先手が堅い。6二角は守備には大いに貢献するが先手の持ち角の潜在力もそれなりのはず。総合すれば先手が悪い道理はない。後手はゆっくりとした展開に持ち込んで馬を作るとか成桂を動き出せば、形勢が良くなってくる。15時20分頃だったか。

 

 問題はここだろうか。本譜は▲1五角をまず打ってから▲5一銀と強攻したのだが、△同飛が生じてしまった。香車に当たっているので▲同香成しかなく、1五角が呆けてしまった。先に▲5一銀を放り込んでおけば△同角であれば▲同香成以下▲1五角が金と成香の両取りになるし、▲同飛であれば角を手持ちにしたままなので、戦いの選択肢が本譜よりは遥かに多かった。

 

 さらに見逃せないのが3図の▲同香。この手はいくらなんでもないわ。9筋の後手香車連合が一気に動き出してしまう。その前の▲6一飛も『こんな狭いところに持ち駒の飛車を置くの?』と一目疑問。珍しくも永瀬の指し手品質がこの辺りはよくなかった。

 

 

 わずか90分の間に形勢は一気に後手に傾いたわけである。トータルで見れば、菅井は思うがままの指し回しであり、快勝といえそうだ。

 

 挑戦者としての菅井。私の評価は『A級の上位5名には少し及ばない』だが、藤井に順位戦で勝っているし、振飛車党のタイトル戦はファン受けもよいはずで、叡王戦番勝負はまずまず盛り上がるのではないだろうか。