昨日今日で行われた将棋王将戦第6局は後手番藤井が快勝。2日目午後4時前の終了で決着局としてはちょっと残念な内容かな、とは思うが、番勝負としては見どころも多かった。敗北した羽生も第5局はチャンスがあった。長く回顧される一戦であろう。

 

 終局後のインタビューを観ていて思ったこと。

 

・藤井が△7四角の周辺で『難しくて良く分からなかった』と述懐。この人の『分からない』は我々の『分からない』とは別物で、恐らくは2択の選択をしきれないくらいなのだろうか。

・『将棋の奥深さを感じることができた』とも発言しているが、『感じた奥深さを言語化してくれよ!』『これで[奥深さ]を感じてしまうと、実力がどれくらい上積みされるのだろう?』等々突っ込む。

・羽生が相変わらず若々しい。何度もタイトル戦、番勝負、大勝負をしている羽生にしても、この番勝負は恐らくキャリアで初めて実力的に格上を認識する強敵との闘いだったはずで、相応の準備振りをうかがわせるものもあった。(対渡辺戦ですら、彼目線では互角以上の対戦成績であり、勝てない、という実感を遂に持たなかっただろうと推測する。)

・長く将棋ファンをしている私目線では、羽生ー中原の番勝負がついになかった残念さの幾分かはこの番勝負で払拭できたような気がする。考えてみれば中原ー羽生の年齢差は23、羽生ー藤井の年齢差は32!!! 中原の最後のタイトル戦登場は45歳時、今の羽生は52歳。。。羽生の破格振りが今更ながらに理解できる。できれば、この両者の対戦は王将戦ではなく竜王戦とか王位戦で再度観たいものである。

 

 本局の棋譜は今日以降30日間であればこちらでご覧いただけます。

 

 第72期王将戦七番勝負第6局 - 毎日新聞 (mainichi.jp)

 

・戦型は羽生の指定で角換わり早繰銀。叡王戦の対永瀬戦敗北を下敷きにしたもの。藤井の事前準備はこの戦型にも及んでいて(永瀬の将棋である以上は当然か)、42手目の△7三桂までは消費時間32手で飛ばす。誘導した方の羽生はこの時点で57分。永瀬ー羽生戦の修正手段も藤井が打ち出している。この時点で、『もしかすると藤井の張り巡らした網の中に羽生が飛び込んでいるのでは?』という悪い予感を覚える。実際、△7三桂は浮いている銀を桂馬だけで支える建付けで、何かあれば直ぐに持っていかれそう。後手の玉と飛車の位置関係、先手が歩を入手可能であることから、3筋の歩交換⇒飛車で銀を取り、角交換⇒▲7三角の王手飛車が素人目にも映るが、壁銀を解消してしまったため、悠然と△4二玉と逃げられ、飛車をタダで取っても△5七桂不成と飛び込まれてしまう。▲5八銀と飛車打ちを防いでも、形勢は後手優勢。。。藤井であれば5秒で読めるか。。

 

・この辺の局面をAI参照せずに自分なりに評価してみると、後手の壁銀が解消されない内に決戦に持ち込めれば先手に見込みあり、となるのだが。。。その後の局面も含めて羽生の感想だと『手を作るのが難しい』という。

 

・AIが否定的な評価をしているらしい▲6六銀や▲4八玉、▲3八金も人間目線ではそこまで悪い手とも思えない。ただ▲3九玉は中央が薄くなってしまい、後手の戦力の中央集中との対比で損だったかも。

 

・2日目の午前は羽生が苦悩の長考モード。手の進みが遅いので、NHK杯戦の藤井―八代を並行観戦していた。羽生からの攻め手はもうなくて、封じ手の▲3四銀はもたれかかりモード、玉を遠ざける▲2八玉、角筋を遮る▲5六歩などは、観戦していても付加価値がイマイチ。藤井はその間も態勢を整えていく。昼食前の▲2一角もいかにも苦しい。ここで角を放出するメリットがみえない。

 

・△4五銀上から総攻撃に出る藤井。70手目の△4五同桂の局面で長考に入る羽生。局面はすっかり解れている。羽生にとって悪い方にだが。一目は▲3七歩だが△5七銀と踏み込まれると▲同銀△同桂成が確定であり、イコール後手の角が動き出し、それはそのまま後手の飛車の稼働開始の告知でもある。だから5七が最重要防衛地点になるようで、AIの推奨手は▲6八金!!! これは・・・人間に指せる手ではない。指せればまだまだあやがあったかもしれないようだが、人間が指せない手をあれこれ論じても仕方がないか。この手を普通に人間が思考できるようになるまで、今少しの年数がいるのではないか。

 

・羽生のこの長考の間の思考を是非開示してほしいが、結論は▲6四歩。飛車を動かして△5七銀の威力緩和を図ったか? しかし藤井の応手は厳しさを増すばかりで、構わず△5七銀の強打!!! 先手の飛車が6七に移動してしまい、△5六角が実現し、藤井の必勝となった。

 

 この将棋の勝ち方は、本当に疾風。事前準備の深さ、中盤の踏み込み、終盤の最短の寄り付き・・・もう極みですよ。来週の棋王戦第4局、渡辺はどこまで戦えるだろう。

 

 22年度将棋界はもうすぐ終わるが、最後の方でもいいものを見せてもらえている。来年度は藤井優勢に割り込むような棋士が出現すればいいのだが、どう考えても難しそうだ。