一昨日のA級順位戦7回戦の佐藤佐藤対決。A級在籍26期のレジェンドの降級ということで、後追い記事がそれなりに出ている。

 

 主催紙に対し、ご本人は「今期は、全体的に将棋が単調になってしまい、もうちょっと深みのあるものにしないといけなかった。内容がよくなかったのでしょうがない。また一から出直しという気持ちで、来期も戦っていきたい」とのこと。

 

 ここまでの七戦をみても、優勢の局面があったのは対稲葉、対佐藤天彦戦だけで、他の5局は作戦負けからあっさりと押し切られている。前期まではしばしばあった終盤でのウルトラパワー爆発もみられない。そもそも彼の作戦を予想するのは困難、先手でも後手でも戦型を決めるのは佐藤康光・・・とされていたのが、採用戦型に特に新味がなく(採用実績のあるものの再登板)、晩年の加藤一二三のように対戦相手のヤマ当てされていたのではないか。

 

 

 
 指し手への言及のあるのはこちら。私が下で触れるところがカバーされている。

 

 


 戦前の状況は順位、星でそれぞれ1つのリードのある糸谷、佐藤天彦が佐藤康光よりは優位ながら、佐藤天彦―佐藤康光、糸谷―佐藤康光の直接対決が残っているため、佐藤康光が残りを3連勝すれば・・・というところであった。それも潰えた。。

 将棋は佐藤康光誘導で角交換向飛車。この戦型も相当に対戦相手の事前研究が行き届いていると予想され、どうせ正統系の戦型を採用しないのであれば、右四間とか石田とかでもよかったのではないか?と思う。

 筋違い角を打たれ7筋や9筋攻撃を食うのだろうかと心配したが、1図で手抜きで▲3五歩はさすが。▲同歩は△9八歩を食うのでないとしても、9筋で純粋香車損をして指せるとする大局観はすごい。美濃囲いの急所を攻めているのだからバランスはとれていますよ、といわれればそれまでだが。。。後手の攻勢を上手にすり抜けた感がある。先手玉は銀冠に囲われ当分は懸念なし。

 

 

 左翼の金を取られそうだったが、右翼で戦闘を行い、展開がこの金が取られて困るような緩い速度ではなくなった。その金は遊んでいるが後手の竜の稼働域を制約はしており、全くの役立たずではない。徐々に形勢が先手佐藤康光に傾く。5回戦の対稲葉は穴熊にいたのに最後は寄せられてしまったのだが、今回は大丈夫ではないか?

 

 2図では当然▲5二角~▲5三成桂~▲3四角成の攻勢を意図するかと私は予想した。2図の場面では先手玉が相当に堅いので、タコ殴りモード発現か、守備駒の数が2枚以上違うのだから、削りにいけば自ずと勝てよう。。。と読んだのだが、本譜は▲5七角成~▲9三角成の守備力アップ+ゆっくり戦闘モード。これを踏み込み不足と読むか、慎重とみるかは人それぞれかもしれないが、決めに行くのを怖がったわけではないよね? 成績が上がっていないといろいろと不吉なことを発想してしまう。

 形勢を握ったまま局面は推移し3図へ。中央の角が邪魔だとばかりの桂打ち。

 

 

 こんなのはノータイムで角を3三に切りとばす、終盤の角金交換は金の方がメリットが多い。しかも後手の守りの金を上ずらせることもできる。。。。はずだが、佐藤は▲7二竜。  ???  本譜は桂馬が5五に自動的に来てしまい、さらに4七にジャンプすらできる。この成桂をとることもできずに▲4九玉と退避するのでは変すぎる。。。案の定、▲7二竜は疑問であった。後手の反撃がきつい。(上記の松本博文氏の記事にも言及がある)

 

 4図まで並べて『ああ、これはもう寄らないな』と私は考えたのだが、実際は桂打ちではなく△3六銀が詰めろ逃れの詰めろで後手必勝だったという。

 

 

 問題は5図以下で松本氏の記事ではここで代えて▲3四桂であれば先手勝ちとある。なるほどいい手である。。。実況サイトには『後手玉は▲3四桂と打っても△1三玉で詰みはない。』とあるが▲4二竜と香車を外すと詰めろ逃れの詰めろになる。控室も時間がなくて分からなかったのだろう。両対局者も見えていなかったと記事にもある。

 

 

 ここからは悪手の連続のようで、本譜△同香のところでは、5図が後手詰めろでないので△5七歩と打って後手有利のはず。△同香に▲4四歩が本当に問題ありで△同香の際に歩切れになるのと△2四歩で1二角が効いてくるのを防ぐためにも▲4五歩と我慢するしかない。。。本譜は△同香ではなく△5七歩だったが、これでも受けなし。本譜は▲4三歩成だったので詰んだが、▲同香でも△2四歩で角筋が6七に通ってしまうので、後手の勝ちに変わりはない。(と偉そうに書いているが、一回目の棋譜並べでは2四歩は全く思いつかなかったことを白状しておく) 凱歌は佐藤天彦に上がった。

 前のエントリーでも書いたが、復活は全時間を将棋に投入するくらいでないと厳しいのではないだろうか。連盟理事職との併任は相当にしんどい。(Cクラスの棋士ならともかく)理事職のまま将棋界でトップを張っていたいというのは、MLBのスターティングメンバーがチーム経営をしているようなもので、無理筋の度合いは理解いただけると思う。その辺の量産型棋士でないだけに今の状況が惜しくて仕方がないです。