そろそろ藤井聡太の棋譜を並べてみるかな、と竜王戦の金井戦、新人王戦の横山戦を見てみた。実況、解説の内容を入手できないので、棋譜を並べただけの感想です。

 

 金井戦は後手番で流行の美濃からの攻勢。この戦型は、私も最近、採用するようになったのだが通常の急戦矢倉に比べ、玉が深いところにいるため先手の反撃の当たりが弱い。実に優秀な戦法だと思う。組み上がって1図。

 

 

 先手なのにここまで専守防衛に追い込まれるのは不本意ではなかろうか。私なら3筋突き捨てを入れて、7七銀を6八に引いて早く攻めてくれ!と促すけれど、金井は▲3七桂。この桂馬を跳ねたということは桂馬を左翼で交換して▲4六桂と打つ反撃を軸に考えているということか。タイミングを掴んでその前に▲2二歩が入るようなら迫力がありそう。桂馬が安定しそうもないので、ギリギリの見切りのような印象も受けるところである。

 

 藤井の攻撃を端歩を突いていた利を生かし、一度は退ける金井。「15連勝できたことはうれしい。途中、苦しい将棋にしてしまったことは反省点です」という局後の藤井の感想があるが、この辺を指してのことだろうか。ただ、2図での▲8五歩はどうであろうか。

 

 

 

 ここに歩を打っても桂馬に取られるだけでつまらない。歩を打つなら▲8三歩、▲8四歩がノーマルではないかと思うのだが。本譜の代わりに▲8四歩であると仮定して、本譜の進行を辿れば、本譜と違い▲8六銀と桂馬を守る必要がなく大違いだったはずだ。

 

 それでもまだまだ難しそうに見えるのだが、藤井は寄せが速い。△6四角が先手で放たれ、以下自玉が美濃で安泰であることを利して飛車をまず切り(3図)、ついで角を切っての寄せ。挟撃になっているので残す腰がない。

 

 

 

鮮やかであった。相手の急所が分かるのでしょうね。その上で、終局時点で残り時間が80分近くあるのだから、余裕がある。

 

 続いて新人王戦。この将棋は序盤では機敏に中央に模様を張った横山アマの方がいい感じにもみえたが、持ち歩の数が少なく、やや突っ張りすぎの感もある。

 

 

5図のような無理やりな手をすれば藤井は確実に捉えるだろう、と見ていたら、案の定その通りであった。

 

 

 序中盤では自然な手を積み重ね、終盤で相手の失点があれば一気に捉えて仕留める、か。豊島を対比に出すのが適当かは分からないが、豊島は時々序中盤で「え? こんな手が通るの?」といった踏み込みを見せることがあり、その中には定跡を塗り替えたものもある。藤井の場合はサンプル数が少なすぎてよく分からないが、ここまでのところ、序中盤は離されなければ終盤にまくれるという自負があるのかと推測できるような指し回し。洗練されていますね。戦型への思い入れがない分、局面を客観的に眺められそう。

 

 昨日も勝利して17連勝。まだB1以上と対戦していないとはいえ、このC級相手の勝ちっぷりは全盛期の羽生を彷彿させる。