4月26日に那智勝浦で行われた奥熊野韋駄天ウルトラマラソンに出てきました。東京からはものすごく遠いのですが、行った甲斐のある素晴らしいものだったので、長文ですがアップさせていただきます。

「前日編」
 和歌山県は東京在住者にとってみるとかなり縁遠い県ではないか。私自身は42年ぶりに足を踏み入れることになる。この大会、評判はものすごくよい割にはウルトラランナーの中ではサロマなような超人気大会にはなっていないのが不思議でならない。

 私なりにこの大会に参加する理屈を考えてみると、1)世界遺産の那智観光ができる、2)エイドが超充実、3)ホテル手配が楽で、シングル一人利用が可能(=相部屋前提ではない・・・自分の中では超重要)、4)現地の料理がおいしそう、5)棚田や茶畑等日本の原風景を周遊するコース、6)参加者が少なくストレスなさそう、といくらでも並べることが可能である。5月の野辺山ウルトラ参加は見送り、今年の春は奥熊野に振り返ることに特に躊躇いはなかった。

 とはいえ、遠い。朝6時16分の東京発のぞみに乗っても、紀伊勝浦着は正午前になってしまう。まさに一日仕事よ。到着後まずはマグロを食さん、と駅前にあるBodaiに足を運ぶ。マグロカツ定食(1500円)を注文。評判のいいお店なのだが、私には量が少なすぎた。恐らくは女性向。実際、店内は女性が圧倒的に優勢だった。



 その後、那智山にバスで移動。終点より手前の大門坂で下車し、熊野古道を歩くことにする。敷き詰められた石畳にはどういうリソースが投入されたのか? 地元民のボランティアか? 賦役か? 資金は? 興味の尽きない話題である。眺め仰ぐ木々の幹が尋常ではなく太い。800年級の大樹があちらこちらに生えている。他所の神社ならそのまま御神木になりそうなクラスである。



 ようやく上にたどり着く。早くも汗がたくさんに。この温度はレース向きではまったくない。暑熱馴化もろくに行えていない時期には厳しいか。傾斜も100キロPBを出した「えちごくびきの」(10時間40分)よりもきつい。これは明日の目標タイムは11時間くらいか。と早くもテンションを下げる私であった。



 その後お約束の三重塔と那智の滝の2ショットを眺めて、滝まで降りてこの日の観光はおしまい。夕方から前夜祭に出る。若干時間があったので漁港前で足湯を楽しむ。



 前夜祭は17:15からとのことだったが、その時間には既に多くの選手が食事を開始していて、食べ物には長蛇の列ができていた。並んでいる間にイベント開始となる。なんかな・・・とイラっとするが、食べ物一式(ビール、カレー、マグロ、サラダ)を貰い着席すると気分も収まったか。

 前年優勝者(フルコスチュームの宇宙人「カトルス星人」に扮しつつも優勝した猛者ながら面白い方であった)や本日誕生日の人やその他コスプレ選手ののスピーチの後は高石ともやのコンサート&トーク。ゆるいイベントながらも心が暖かくなった。この日はこれでおしまい。後は温泉に入り、寝るのみであった。

・・・・・・・・・
「当日編」
 朝は2時50分起き。前日に仕込んでおいた黒霧島のおかげで、ベルで起こされるまで熟睡できて、気分がいい。軽い朝食をホテルで整えてくれ、4時7分にスタート地点である那智の滝に向かうバスが出発。至れり尽くせり。

 滝まで各自静々と降りて、完走祈願、家内安全を祈ったお札を焚く。辺りが少し明るくなり、滝がみえるようになってきた。考えてみると相当にレアな状況ではある。カウントダウンは主催者さんの発声によるものでピストル音もなく「スタート!」。(そういえば、「法螺貝」もなかったな) これもまたレア。長い1日が始まった。



 まずはゆっくりと道路に向けて参道を登っていく。ご神域であるのであくまで静かに静かに。道路に出て距離調整のため少し下って折り返してからは当分は登り一本道。私はかなり前の方を走っているように思えるが、ペース自体は相当に手抜きモード。PB更新はまったく考えず、適当に写真を撮りつつ11時間以内なら上出来、という気持ちの持ちようであった。てろてろ上っているとGPS時計が4キロちょっとのところで早くも5キロの看板が出現! 29分台。キロ6分未満で走っていることになる。「え? 時計が狂っているのか? それとも距離表示が違うのか? うーん・・・どっちだ?」と迷う。私は練習の時にGPS時計を左右に仕込むことが多く、2つの時計が全く異なる距離を表示することはあり、万全の信頼をおけないことは認識している。体感ペースは6分半/キロくらいであろうか。しかし、スタート後にわざわざ距離調整の迂回まで強いているのに距離がここまで短いということはあるのか? いずれにせよ、このレースに限っていえば思いもよらぬボーナスをもらったことになる。距離表示とGPS時計の誤差は深刻に考えないことにしよう。

 阿弥陀山前の展望台で朝日と太平洋の写真を撮る。素晴らしい眺め。エイドでドリンクや食物を取りながらも5キロから10キロのラップも30分未満。サブ10比較で預金は膨らむ。8キロ過ぎから一気に激下る。大腿四頭筋を疲労させたくなかったので、ブレーキをかけずに前傾を維持して突っ込み、傾斜が穏やかになったところで程々に減速する。20キロ地点で1:52:03と貯金は8分に拡大した。





 こうなると、リラックスラン、というわけにはいかない。水を張ったばかりの水田があまりにも美しいので1枚だけ写真を撮ったが、今日一日ずっとこういうわけにもいかないだろう。出来ないまでもサブ10を意識してレースをしてみることにした。20キロからはやや平坦~微かな登りというところ。29キロにある長井集会所エイドでドロップバックを受け取り、撮影用に持参していた携帯電話を返却する。走りに専念するのである。



 30-40キロはエイドに全部寄りつつも29分台/5キロを維持。この間、めはり寿司、鹿肉、ソーメン、お汁粉、イチゴ、生絞りオレンジジュースを立て続けにいただいている。エイドの滞在時間は30秒から1分程度か。ここをもう少し節約できれば、とは思うが、長丁場で栄養補給を怠るわけにはいかない。

 40キロからは激坂登り。65キロコースの選手がスタートしてしばらくの地点で追いついてまとめ抜き。300Mを一気に5キロで上るが33分で踏破。茶畑や棚田が美しい。そこからまた下りで九十九折の連打をクリアしていく。なんとなく風景が野辺山ウルトラの馬越峠の後の下りと似ている。

 50キロ経過時点で4・53:28。特に飛ばしたつもりもなく、上出来すぎるか。ここから残りの50キロは標高でいえばマイナスになるので高度のメリットはある。但し、気温は確実に上昇しており、85キロからの7キロにわたる激坂もありで、今の状況をどう認識するべきか、この大会初参加の私には判断しかねた。

 ここからは登り第3弾。またも300Mくらいの高度を稼いでいく。このレースはウルトラにしては珍しい折り返しコースになっていて、先行するランナーを目撃できる。前年度優勝で前夜祭の立役者でもあったゼッケン1番のカトルス星人さんが声援をおくってくれる。全身コスチュームであの速さと声、元気だなぁ。やはり彼が1位だろうか?と思ったが、実際には4位だった。強いランナーが多い大会だ。

 レース中、絶景には恵まれたが、折り返し点前の眺めが最高か。遠くに太平洋、眼下に棚田、茶畑のミックス。日本の初夏をこれほど感じさせる風景があろうか。折り返し点前に前夜祭でサブ10目指す、といっていたスーパーマリオのコスプレのランナーに追いつく。「マリオさん、サブ10、がんばりましょう!」と声をかけると「60キロ地点でイーブンならどうにかなるんじゃないかと思うんだけどな」とのこと。自分なりに考えると、『この温度であの坂を登るのではキロ7分ー8分もありそうで60キロで貯金なしだと難しそうだけど・・・毎年参加している人がいうのならそうなのか?』とよく分からない。とりあえずスーパーマリオさんは抜かせていただいた。前半足を使っていないのでまだ余力はあった。

 別のランナーから「きついレースですね!」と話しかけられ、「でもぼくたちサブ10ペースみたいですよ。頑張りましょう」と返すと「いやいや、あの坂があるからな」と悲観的。さもありなん、と思うが、『まぁなるようにしかならないけど、ダサくないレースにはしよう』と飛ばしすぎないように山を降りていく。

 途中のエイドで高石ともやが応援に出ていて「ここで加速できるのはえらい! 頑張れ」と声を飛ばしてくれる。『ほとほといい人だな』・・他にも移動しながら応援してくれる人が何人かいらして、元気をいただけたのには本当に感謝であった。

 エイドではかぶり水、顔洗いを励行し、氷をキャップの中に入れるなど熱中症対策を行うが、とはいっても軽い熱中症ではあったか。どうも肩が凝って仕方がない。85キロ過ぎまではほぼフラットで、無理をせずにタイムを稼ぎたいところではあるが、70キロを過ぎるとキロ6分台のラップが連発されるようになった。70キロ地点では6:53:16と7分弱の預金があったのが80キロで4分弱、85キロで1分25秒にまで圧縮。これであの山中(85キロ過ぎから7キロで300M越え)か。。。93キロ過ぎからの最後の7キロは超下りだが、今の脚に下りに耐える力があるとは思えない。まずは上りをガンバロウ!と気合を入れるが、やはりキロ7分程度のラップにはなってしまう。それは仕方ないが、ダサくないレースにはしたいとの一念で距離を稼いでいく。

 漸く峠をすぎての下り。案の定というかキロ5分台はでない。それでも昨年10月えちごくびき野で出した自己ベストの大幅更新は間違いない。機嫌よくゴールをしよう。ゴールは補陀洛山寺。世界遺産。往時の威容はないが、補陀洛渡海(密閉された船に僧侶が乗ってそのまま死出の旅に出るのである)の出航場所であったところで、そこにゴールというのも何とも微妙な感覚もあるのだが、私は元気だった。

 那智の街の中に入り、声援をいただきながら、ゴール入り。タイムは自己ベストを30分短縮。MCのアナウンスが私がカテゴリー2の入賞者であることを告げていて、唖然。そこまでいい成績なの? 表彰され、インタビューまで受けさせていただき、感動しました。流れで「来年も出場させていただきます!」と言い切ってしまったのだけど、どうしましょう。

 この大会運営は本当に行き届いていて、ゴール後はビール、シャーベットに食事(きつねうどん/豚汁/ぜんざいの中から1つ選択)をもらえる。ふーと一息つきながら、他の選手のゴールシーンを眺める。道中話をした方もおられ、お互いに健闘を称え合い、さらにいい気分。ホテルまで乗合タクシーで送ってもらえるのもポイントが高い。

 奥熊野韋駄天ウルトラは本当にいい大会です。ものすごく遠いといってもサロマや隠岐島ほどではなく、移動についての懸念は全くないし、ホテルも一人部屋確保が可能。コースは300M級の峠越え4回とハードで特に終盤であの坂はないよ~とぶちりながら走ることになるが、それも一興。景色は多様で飽きがこない。エイドは超充実で繰り返しになるが、鹿肉、めはり寿司、茶粥、おにぎり、水ようかん(食べやすくて重宝した)、ブルーベリーヨーグルト、そーめん、おしるこ、手で絞ってもらえるオレンジジュースに急所で投入されるビール。いうことなし。ガチ系もゆる系も楽しめるレースでした。

 来年参加するかはまだ考えられないけど、ウルトラに関心のある人には自信をもってお勧めできます。