昨日の名人戦、改めて並べてみたのだが、恐らく勝敗の分水嶺はうーんと手前にあったのかな、という気がする。というのも真っ向から開戦してみると、3筋に逃避済みの後手玉に対し、戦場近くに位置する先手玉の対比が顕著で、「これではとても戦争にならないのではないか」と思うからだ。あの手を指せばまだしも、というのはあったかもしれないが、その「たられば」をクリアしたとしても、先手が勝ちにくい陣立てであった。

 封じ手局面ではどうなるのか見当がつかない状況であったが、羽生名人は中住まいとひねり飛車のミックスを選択。このミックス、私個人の経験で恐縮だが横歩取り3三桂戦法の先手で成り行きでこうなってしまうことがよくあり、しかも勝率が悪い。自分の攻撃の反動がきついのである。名人ならどうか、というところであったが、難しいものがあったようだ。

 感想戦記事を読んでも、名人の判断ミスは披露されても行方八段の妙手順は具体的に指摘されていない。昨日のエントリーでも書いたが、△8七歩はかなりの好手だと思うけどな。。。もとより▲同金としなければここまで押し捲られなかったかもしれないが、好機の桂跳ねからの角交換の選択余地を▲9七角では消されてしまう効果もある。

 その前の2三金-3二玉を早めに決め、先手玉との対比の中で戦略優位を確保しようとしたのもさすがではないか? 普通に交戦すれば遠いだけ勝ちやすい。戦術的妙手など要らない状況に落とし込むのが名手の腕というものだろう。

 全局を通じて挑戦者の充実が伝わる将棋だったと思う。