この本は3月に読んでいた。その内、感想をアップしようと思っていたのだが、本屋大賞に選ばれたということでいい時期かと思った次第である。

 もともと守人」シリーズや獣の奏者シリーズは娘がいいよ、といっていたので購入、熟読しており、上橋作品のテイストには馴染んでいたつもりではあった。この作品の世界観は中世中央アジアからロシアにかけてかな、と思われ、その時代の当該地域の歴史にある程度の基礎知識を持っているつもりの私には入りやすいものではあった。定着民とか遊牧民とか帝国の中での階級とか偏見とかがよく表現されていてライブ感が豊かなのは、上橋菜穂子、さすがである。登場人物や組織の多さは半端なく、訳がわからなくなる人も多かったのではないかと危惧されるのだが、そこは堪えて丁寧に読んでもらえればと思う。

 彼女の作品を読んでいると、人間世界から争いというものはなくならないな、という諦念も湧き出てくる。主人公の敵対勢力にも理がないわけではないし、その理を放棄させる術もないからである。

 最後の展開がちょっと凝りすぎているところがあり、ついていくのがちょっと大変なところはあるかもしれない。あそこまで捻らなくてもよかったかも。

 とはいえ、いろいろなことを考えられる良書。9/10。