先日、「年金は本当にもらえないのか?」という記事を書きました。

あまりに同世代の人たちが「どうせ年金はもらえないに決まってる。」と言うので、

まずは、正しい情報をお届けしようという思いからのものです。


その記事に対して、年金の制度設計の前提となる経済指標の将来推計の「運用利回り4.1%」は非現実的ではないかという声をいただきました。


僕自身、詳細に調べて丁寧に説明する時間的余裕が最近なかったのですが、

僕のブログ記事をFacebookでシェアした厚労省の後輩にも同様の声が寄せられたようで、

彼が、詳しく説明してくれています。


千正さんのブログで拡散してとのことだったので、以下、転載いたします。

多くの方に、一次情報をとらえる機会になっていただければ嬉しく思います。


【以下、転載】

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先日私のウォールで、私の先輩のブログのエントリー「年金は本当にもらえないのか?」についてシェアしました。
http://ameblo.jp/senshoyasuhiro/entry-11249182353.html

色々と反応をいただいたのですが、友人の一人から、「運用利回りの前提が4.1%というのはちょっと無理ではないか?」というギモンが来ました。
うーむ、なるほど~。確かに4.1%って今じゃ夢のような利率だなぁ、どうなってるのかなぁ、と思って調べてみました。
(注:私も年金関係の業務には基本的に従事したことがないので、調べてみないとわからないのです・・・汗)

で、資料の当たり方は色々あると思いますが、厚生労働省が平成23年8月に公表した「年金積立金運用報告書」の25ページ以降に書いてありましたので、その内容をご紹介。

○(報告書の内容に入る前に前提として)法律で政府は少なくとも5年ごとに国民年金・厚生年金の財政の現況及び見通しを作成することとされており、直近は平成21年に行われている。(以下「平成21年財政検証」と表記します。)

○公的年金の年金額は、年金を受け取り始めるときの年金額は名目賃金上昇率に応じて改定されるので、長期的にみると年金給付費は名目賃金上昇率に連動して増加することとなる。したがって、運用収入のうち賃金上昇率を上回る分が、年金財政上の実質的な収益となる。(名目運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いた「実質的な運用利回り」)

○平成21年財政検証における運用利回りの前提は、平成27(2015)年度までは、内閣府「経済財政の中長期方針と10年展望」(平成21年1月)に準拠し、平成28(2016)年度以降は、社会保障審議会年金部会経済前提専門委員会「平成21年財政検証における経済前提の範囲について(検討結果の報告)」(平成20年11月12日)(注)で示された範囲の中央値を取って設定している。
(注)経済前提専門委員会では、過去の実績を基礎としつつ、日本経済の潜在的な成長力の見通しや労働力人口の見通し等を踏まえ、マクロ経済に関する基本的な関係式を用いて推計される実質経済成長率や利潤率を用いて、長期間の平均的な経済前提の範囲を推計。

○平成21年財政検証における予定運用利回り及び名目賃金上昇率の前提とそれに基づく実質的な運用利回りは以下のとおり。

名目運用利回り 名目賃金上昇率 実質的な運用利回り (%)
平成21年度 1.47 0.05 1.42
平成22年度 1.78 3.41 -1.58
平成23年度 1.92 2.66 -0.72
平成24年度 2.02 2.81 -0.76
平成25年度 2.23 2.60 -0.36
平成26年度 2.57 2.74 -0.17
平成27年度 2.91 2.82 0.09
平成28年度 3.39 2.50 0.87
平成29年度 3.65 2.50 1.12
平成30年度 3.85 2.50 1.32
平成31年度 4.00 2.50 1.46
平成32年度以降 4.10 2.50 1.56
※長期の前提である平成32年度以降については、物価上昇率1.0%、実質長期金利2.7%、分散投資0.4%の計で名目4.1%となっている

○なお、既に実績が出ている平成22年度の運用実績では、名目運用利回り-0.26%、名目賃金上昇率0.68%で、実質運用利回りは-0.26%-0.68%=-0.93%で、財政検証上の前提である-1.58%と比べて+0.65%、額にして0.81兆円のプラスとなっている。

○また、参考までに過去10年間及び過去5年間のベースで実績と財政検証上の前提とを比べてみても、過去10年で+1.56%、過去5年で+0.53%実績の方が上回っており、年金積立金の運用が年金財政にプラスの影響を与えている。

(報告書の内容紹介終わり)


ちょっと長くなってしまいましたが、ここからわかることは、「名目運用利回りが4.1%というのは2020年以降の話であり、現在はもっと低い利回りを前提としている」ということですね。
今の景気がいいか悪いかということについての言及はここではしませんが、基本的には景気は循環するものなので、過去の実績も踏まえて今の時点で計算してみるとそういうことになる、ということなのだと思います。

あと、報告書では平成22年度の運用実績や過去の運用実績はプラスになっている、と言及していますが、これは鋭い人ならおわかりかと思いますが、賃金上昇率が想定よりも低いことが主要因です。

となると、「既に実績ベースで前提と乖離しているではないか」という指摘もあるかと思いますが、まあ将来を正しく予測できる人は(たぶん)いないと思うので、だからこそ政府は5年に一度財政検証を義務づけられているわけです。(次回は平成26年、再来年ですね。)

関連していえば、平成21年5月26日の社会保障審議会年金部会では、機械的に名目賃金上昇率の前提を下げた場合や、過去10年、20年の平均をそのまま経済前提として使用してみた場合というシミュレーションをしており、その場合には早い場合で2031年には厚生年金の積立金が枯渇するという見通しを示しています。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0526-6f.pdf

結局、政府としてはその瞬間瞬間で合理的と思われるデータを用いて政策を進めていくわけですが、それが必ず正しいということは悲しいかなないわけで、状況の変化を捉えて軌道修正をしていく必要があるわけです。そして、その軌道修正には社会的合意が必要になるのです。
そう、先輩のブログの結論も最後はそこに行き着いています。どうやっても結局話はそこに帰着するのです。
そして、いうまでもないことですが、社会的合意というのは、「誰かが決めてくれるものではなく、みんなで決める」ということにほかならないのだと思います。

社会的合意をしていくためには、その前提として、みんなが正しい情報に触れる、ということが重要です。
奇しくも先輩のブログの直近のエントリーで、「一次情報にアクセスすることの困難さ」が言われていましたが、
http://ameblo.jp/senshoyasuhiro/entry-11251884458.html
一次情報へのアクセスをできるだけ容易にするように努力することや、我々ができるだけわかりやすく発信していくことが重要なんだなぁ、と今回の件でも思った次第です。

以上、大変長いエントリーになりましたが、最後まで読んでいただけた方(いるのか!?)、ありがとうございました~。