僕は、1975年生まれです。
よく同世代の人が年金を語る時に、こういうことを言うのを聞きます。
「どうせ、僕らの世代は年金もらえない。」
「それは、そうよね。もらえるわけないわよね。」
さらに
「私たちの世代は、生まれながらに損することがデフォルト。」
なんて悲しいことを言うひともいます。
こういう意見には、結構誤解があるように思うので、少しお話をしてみたいと思います。
いずれも、年金制度を所管する厚生労働省の公式発表からです。
1 年金の給付と負担の関係
まず、年金の給付と負担の推計について数字をお示ししたいと思います。
今の30歳過ぎの世代である1980年生まれの平均的な所得の人を例にします。
(1)厚生年金(サラリーマンが入る)
生涯保険料負担額・・・4,500万円
年金給付額・・・10,400万円
払った額の2.3倍の給付です。
(2)国民年金(自営業者、農林漁業)
生涯保険料負担額・・・1,800万円
年金給付額・・・2,700万円
払った額の1.5倍の給付です。
本当か!?
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
2 なぜ、そんなにもらえるのか?
すごくおおざっぱに言えば、以下が大きな理由です。
①年金の給付に使うお金は、保険料だけでなく国庫負担(税金)がある。
基礎年金部分(※)の2分の1は、税金を原資として支給されます。
※ いわゆる1階部分と言われる給付で、国民年金の全部と厚生年金のうち国民年金に相当する部分のことを言います。40年間保険料をちゃんと支払った人の年間給付額は786,500円です(平成24年度の額)。
②今、政府が保有している年金積立金を使う。
過去の保険料から約120兆円の積立金がありますが、これを給付に充てていきます。
③厚生年金には事業主負担がある。
サラリーマンであれば、現在の保険料は年収の16.412%(平成23年9月~)ですが、
これを労使折半しますので、サラリーマンの負担はボーナスを含む給料の8.206%です。
④既に相当程度、年金給付の抑制を決定している。
平成16年の改正により、マクロ経済スライドという仕組みが導入されています。
所得代替率(※)は、平成21年の62.3%から、50%程度まで社会経済前提を自動的に反映させて下がる仕組みです。
つまり、3の推計の前提が大きく変わらなければバランスがとれるということです。
※ 所得代替率とは、年金給付が、その時の現役世代の何割の水準かを示すものです。公的年金は老後の生活を保障することが目的です。したがって、「過去にどのくらい保険料を納めたか」ということ以上に「その時代、時代において、生活がそれなりにできる水準の給付できるのか」ということが大事なのです。そのため、公的年金の給付水準を表す指標として、所得代替率がよく使われます。
3 推計の前提は大丈夫か?
上記の推計は、年金財政に影響を与える少子高齢化の状況や、経済成長など経済社会状況に一定の前提を置いたものです。
主な前提は以下のとおりです。いずれも、3パターンの推計のうち中くらいの推計の数値です。
(1)合計特殊出生率
1.26(2005年) → 1.26(2055年)
合計特殊出生率とは、一人の女性が一生に産む子供の数の平均を表した数値で、少子化を表す指標として使われますが、これが低いと年金財政にはマイナスの影響を与え、高いとプラスの影響を与えます。
(2)平均寿命
男性78.53年、女性85.49年(2005年)
↓ ↓ ↓
男性83.67年、女性90.34年(2055年)
年金は、亡くなるまで給付が続く仕組みです(ここが民間の年金との大きな違い)。平均寿命が想定外に延びれば、年金財政にはマイナスの影響を与え、短くなればプラスの影響を与えます。
※ もちろん、寿命は延びた方がよいですが、年金財政への単純な影響のお話です。
(3)経済前提
物価上昇率1.0%
賃金上昇率2.5%(物価の1.0%分を含む)
運用利回り4.1%(物価の1.0%分を含む)
※ 実質経済成長率0.8%が基礎になっています。
4 推計が大きく外れたらどうするのか?
どんな制度も、未来を全て予測して未来永劫続くものを作ることは不可能ですので、その時々の社会状況に応じて修正が必要です。
特に、年金制度は20歳で保険料を納め始めて、65歳(国民年金の場合)で給付を受けて亡くなるまでに、60年もの期間があり、超長期の予測を前提に制度設計をしますので、常に予測との乖離をウォッチして必要があれば軌道修正することになります。
平成16年の改正で導入したマクロ経済スライドにより、今の予測の範囲内であれば、一応は大きな軌道修正をしなくても自動的に給付が抑制され、バランスがとれる仕組みにはなっています。
ただ、それでも大きく予測を超える状況が訪れた場合には、軌道修正が必要になってきます。
そして、その軌道修正には法律改正という社会的合意が必要になるのです。
したがって、年金制度は極めて政治的な課題なのです。
5 老後も安心して暮らせる社会のために
僕は、軌道修正の必要があまりに誇張されているように感じますが、
それでも軌道修正の必要が生じた時に、
みんなの合意というものが年金を存続せしめるのです。
別に年金制度の存続なんて、どうでもいいのですが、歳をとってもみんなが安心して暮らせる社会をどう作っていくかということを、みんなで考えることが大事だと思うのです。
制度の修正というのは、色んな利害の人が話し合いをして、1つの制度を作る営みですので、それは高齢者と若者の対立では解決できません。また、所得の高い人と低い人の対立でも解決できません。
全ての人が、個人の利害に照らして完全に満足のいく制度というのは、年金に限らずあり得ませんが、それでも、「これなら、まあ仕方ないかな。」くらいに世代を超えて多くの人が思ってくれると、軌道修正が可能になるのです。
そのためには、個人の利害をある程度基礎に起きつつも、「社会としてどういう選択をしていくか」という感覚を多くの人が持つことが必要になってきます。
年金制度ほど、金の計算で個人の利害の違いが分かりやすく見える問題は中々ないと思います。
したがって、政治的に解決するのが最も難しい問題の一つです。
政治的にというのは、政治家の方々という意味ではなくて、みなさん一人ひとりの思いが集まるかという問題です。
年金制度の抱える問題を解決できるかというテーマと、日本の民主主義は成熟するかというテーマは、ほとんど同じものではないかと思うのです。
僕は、この国の民主主義の成熟を信じています。
あ、ちなみにですが、
将来予測については、マイナスに外れているものもプラスに外れているものもありますが、1つ外れている例を掲載しておきます。
○ 現在の年金制度の前提となる合計特殊出生率の推計
2005年1.26(実績) → 2013年1.213(推計) → 2055年1.26(推計)
○ 5年後の2010年の実績と推計
2005年1.26(実績) → 2010年1.39(実績!) → 2060年1.35(推計)
【図表】国立社会保障・人口問題研究所HPから合計特殊出生率の推移です。
点線が現在の年金制度の前提となる2005年の推計。
実線が2010年までの推計です。
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