個別訪問の秘訣 | 地方の政治と選挙を考えるミニ講座

地方の政治と選挙を考えるミニ講座

勝負の世界には、後悔も情けも同情もない。あるのは結果、それしかない。 (村山聖/将棋棋士)

釣りはフナに始まりフナにたどり着く。

中華料理はチャーハンに始まりチャーハンに行きつく。

こんな風に、奥の深い世界を例える言葉がいろいろとあるかと思いますが、

選挙について言うならば「個別訪問に始まり、個別訪問に終わる。」と、

言っていいのではないかと、私は思っています。



しかし選挙運動における戸別訪問は、公選法で禁止されています。

なのでここでは、政治活動時の個別訪問について説くことになりますが、

それ故、その方法等を指南しているマニュアルというのは

ごく稀に、私記としてしか存在しないと思います。

私がこれまでに読んだ選挙のマニュアル本の中にも、

具体的にかつ詳細に個別訪問のやり方を説いたものはありませんでしたし、

その存在を聞いたこともありません。



では、選挙に当選し現に議員になっている人に聞こうと試みても、

理論立てて上手に個別訪問の秘訣を話せる人って、まずいないんですね。

聞いてみてもほとんどの人が「行き当たりばったり」。

特に新人のときは、意地だけでやり通したという経験談しかないのが普通です。

だから「苦労したでしょう?」と、私から水を向けると、

「罵声を浴びた」「門前払いだ」「あやうく殴られそうになった」

さらには「警察に通報された」なんて逸話が、矢継ぎ早に出てくるものです。

そして結局、「個別訪問は忍耐と根性!」という、

これからその方法を教わろうという者にとっては、

なんとも拍子抜けな、期待にそぐわない回答しか得られないわけです。



そこで今回は私なりに個別訪問を掘り下げようと思うのですが、

その前に私の経歴に触れておきたいと思います。



これは以前にも書いたことですが、

私が単なる選挙好きから、プロでやって行こうと決めた動機の一つに、

「訪問販売の経験」が、あります。

職種は住宅リフォームの受注営業でした。

月に100人も採用しながら、1年後にはそのうちの10人も残らないという会社で、

スパルタ式研修が大好きないわゆるブラック企業でした。

私にはそこで32歳から35歳までの約3年間、食いつないだ経験があるのです。



訪問販売の会社なのに、訪問の仕方について教えるくれることは、

「バカになれ、そしてとにかく数をこなせ」ということだけです。

会社の本社にいる上層の言い分は「受注は確率」、

即ち「サボらずに歩け、数撃てば必ず何発かはあたるはず」なのです。

確かに新人のうち、あるいはスランプに陥ったときは、

どんなに罵声を浴びようが、次から次へ訪問するしかありませんでしたが…。

しかしこんな仕事にも慣れてくると、見えてくるものがあるものです。

そして会得したコツが、選挙の個別訪問にも確実に活かせるものだったのです。



さて、そのコツを「秘訣」と称して披露しようと思いますが、

そのいの一番が、「相手がびっくりするような訪問はしない」ということです。

これは以前にも「個別訪問を始める前に」 で触れましたが、

訪問先の相手がびっくりするということは、即ち工夫が足りないということです。



現場が住宅地なら、前の日にリーフレットを配っておく、

それに「ただいまこの地区を回っています」なんてメモ書きでも添えたら、

「そろそろ来るな」という構えが住民に出来ます。

現場が農家集落なら、畑で作業中の人に「今からこの地区にお邪魔します」と

声をかけておけば、あっという間に評判になります。

最初に区長や自治会長に、周到なあいさつを済ませておくというのも工夫の一つです。

つまり「相手がびっくりするような訪問はしない」ということは、

訪問するということを何らかの方法で予告することなのです。

方法は考えればいくらでもあると思います。



次の秘訣は、案内人に頼りすぎないことです。

選挙になると、候補者を連れ回して各戸を歩いてくれる人がどこからともなく現れます。

選挙大好きおじさんとでも称しておこうと思いますが、

この選挙大好きおじさんの中には、

かなりの確率で「地域で全く信用されていない」人がいるものです。

言い換えれば村八分ですね。

こういう人と一緒に歩いても票は増えないし、減らすことにもなりかねません。

しかし排除できないのが、選挙大好きおじさんの厄介なところです。

この場合は、おじさんがまわったルートと各戸への入り方

(正面からか、勝手口からか、ピンポンは鳴らしたか、等)を覚えておき、

その後独自で、なぞるように再度回りなおすことが大切です。

リフォームの営業の場合も、

最初に村八分の家で受注してしまうと、その後その集落では絶対に取れません。

受注の連鎖が起きるときというのは、

集落の中で信用の厚い家で、いい仕事ができたときがチャンスです。

つまり良い口コミの主が味方に付いた時なのです。

選挙でもこれは同じです。



そして次の秘訣は「託される」ことです。

営業の場合の第一声は御用聞きです。

いきなり「リフォームしませんか」とは絶対に言いません。

「何かお困りのことはありませんか」から入って、

まずはお客さんの警戒を解き、

口が滑らかになるまで話題を投げかけるのが、営業の努めです。

お客さんの悩みを共有できるまで話を聞くことが出来たら、

あとは大概「あなたにお任せします」。「はい、きっちりやらせていただきます」。

という具合に契約が決まります。

個別訪問の最中でお茶でも差し出されたら、

調子に乗ってあれこれ述べるのではなく、相手の話をとことん聞くことです。

ピッタリ波長が合えば必ず「あなたに任せる」という展開になります。



さらにその個別訪問が奏功しているか否かを検証する方法もありますが、

その方法の披露はまたの機会にしたいと思います。



駅立ちや辻説法のほうがカッコよく、スマートな運動方法だということは解りますが、

選挙は「個別訪問に始まり個別訪問に終わる」そういうものです。

新人のうちは厳しいですが、現職になっての個別訪問は本当に楽になります。

最初は近所の知り合いからで結構です。

徐々に脚力と精神力を養って、

選挙前一カ月には、42kmを走れる自信をつけてください。