10月からTVK(テレビ神奈川)で、毎週楽しみな番組が始まった。
その名も「銭湯物語」。たった3分半だが、ただただじっくりと丁寧にクレーンカメラで魅せてくれる。
誰も登場せず、MCのキン・シオタニ氏のナレーションだけで完結。神奈川県内だけ、しかも伝統型に限っているのもいい。行ってみたい銭湯が増えてしょうがなくなるカタログ番組だ。

最近はTVで銭湯の話題を取り上げることが増えているように思う。
「銭湯物語」とは対照的に、一年間の密着取材で一軒の銭湯を取り上げた、テレビ信州制作の「人生の湯 ~午後3時のしあわせ~」はしみじみとした良い番組だった。
ここで舞台となるのは、国宝松本城からすぐの鉱泉銭湯「塩井乃湯」だ。
高齢の常連さんで埋まる一番風呂、女将さんが倒れた時に代わって掃除や番台を務めるご近所の奥さん、取材中に急逝されたご近所の爺様。
毎日同じ顔を見るのを楽しみにやって来る人たちの為に、できる間は続けようという女将さん。
そんなお風呂屋をとりまく人々の生活をリアルに見て、あらためて銭湯の存在意義を深く考えた。

10月、ちょうど松本方面に用事があったので、思いがけず訪れることができた。
妻とふたりだったのだが、重いものが苦手な彼女の荷物を半分担当しているからリュックはずっしり。だが松本はいたるところに美味しい水が湧き、旅人の喉を潤してくれるため、重い水筒を持ち歩かなくて済む。
市内を一日歩き、足はパンパンで、早く風呂に入りたいモード全開で塩井乃湯に突入した。

4時半ごろだったが番台は無人。困っていると常連の爺さんが「出るときに払えばいいよ。田舎だからこんなもんだよ。」
それから、どこから来たの、など普通の話をしていたのだが、「大きい声じゃ言えないけどな、ここの水は水道の20倍きれいなんだ、数字に出てるんだから。だから来るたびにこうやってペットボトルに汲んで帰るんだよ。」
そういえば、その爺さんだけでなく何人もがペットボトルを持参している、それも焼酎の4リットルサイズだ。
どのように汲むのかを見ていると、浴室の洗い場にあるカランから汲むのではなく、浴槽に水を入れるための大き目のカランから汲むのだ。きっとあそこからの水が一番旨いのだ。根拠は無いが、そうに決まっている。

洋子さん

帰りの番台には女将さんが座られていた。「人生の湯」で何度も見ているから私の中では既に知っている人。
自己紹介にこの全国浴場新聞の話をすれば、どこのお風呂屋でも話が早い。本当にこのコラムを書いててよかった。

女将の洋子さんは、高校を出てからは東京暮らしで、東京での最後は私の住む千住の隣町に住んでいらしたということで話が弾む。
とても頭の回転が速いという印象。優しくて物知りでさわやかで素敵な女将さん。TVでは出さなかったが猫を40匹も(!)世話をされているそうだ。道理で裏の駐車場や脱衣場にニャンコを見かける訳だ。

帰り際、お土産にと、ご自慢の水が満タンに入った2リットルのペットボトルを持ってきた。・・重いよ、女将さん。でも4リットルの「大五郎」じゃなくて良かった。ずっしりとしあわせな思い出を背負い、秋の松本から東京へと戻った。