湯のたしなみ方《最終回》
いつの間にか自分の東京都内訪問銭湯数が600軒を超えた。東京都生活文化スポーツ局消費生活部によると、現在の都内銭湯数は、昨年末の時点で462軒とされているので、もう行き尽くしたように思われるかもしれないが、10年以上前の900軒以上営業されていた頃からスタートしての600軒なので、詳しく調べてはいないが70軒近くは未踏だろう。ひょっとしたら100軒以上かもしれない。未踏がまだまだあるのはある意味幸せだ。入浴軒数にはほとんどこだわらなかったので、新規開拓がおろそかになっていた期間が結構あり、今考えればただの怠慢だったなと反省している。行かずに後悔したことも数知れない。今は金は無いが時間だけはあるので、一軒一軒訪問して見聞を広め、巡り始めたころの真摯な気持ちを取り戻したい。ということで、ぼちぼちとまた巡り始めた。そんな折だから初めての銭湯での出来事なのだが、ほぼ常連の爺さんたちに混じって若い男性客。入浴マナーは申し分なかった。問題は上がってからだった。脱衣場でスマホをいじっている。こういう時に初めての銭湯ではどう対応したらよいのか悩んでしまう。客同士のトラブル回避のために注意はしないでフロントに伝えて、というところがあるのだ。他のお客は気にもしてないようなので放っておこうかな、と思ったら、なんともう一台スマホを取り出し、二台操作を始めたのでたまりかねて声をかけた。脱衣場でスマホの操作はダメですよ。すると青年は、え、なんで!?という顔をしたので、スマホを禁止するポスターを指さして注意しようかと思ったら、どこにも貼って無い。ああ、これはなぜスマホがダメなのかを一から論理的に説明しなければいけないのかと、「カメラが付いてるでしょ?」と言ったらその青年、脱衣場の上部をキョロキョロ見回した。カメラと言われて脱衣場の監視カメラを探しているようだ。いや、そうじゃなくてスマホにカメラが付いてるんだから、人が裸になるところでカメラ機能があるものを操作するということは、云々。長々と説明するハメになった。その青年に盗撮の気があるとは到底思えなかったのだが、これはもっと啓蒙していかねばならないと思った。浴場組合ではカメラ、ガラケー、スマホの絵を入れて「脱衣場・浴室内は撮影禁止です」というポスターは作っているが、スマホが目立たないし、小さな文字までよく読まないと、撮影しなけりゃいいんだろ、と思ってしまう。ここは思い切って、「スマホ禁止」とシンプルにストレートなポスターのほうが良い。ベタベタ貼り紙は気持ちのいいものではないが、そのポスターだけは貼ってもらいたい。貼ってあれば注意もし易いしね。そもそも銭湯ハンコを作り始めたのは、銭湯に興味を持ってもらいたい、という銭湯啓蒙活動からだった。その後、銭湯を舞台にした映画や漫画などで静かなブームになり、更にサウナブームで予期せぬ方向に盛り上がっている。「湯道」という映画は観てないのでここでは取り上げないが、銭湯へ行こうというところから銭湯を楽しむために、湯のたしなみ方を身に付けようという段階へ来ていることは、当初から考えれば進歩だし、ありがたいことだと思う。これからも微力ながら自分なりに銭湯を啓蒙していきたい。<あとがき>ここに初めて書かせてもらったのが2014年6月、よく続いたものだと感慨深い。今回をもってお別れです。飽きずにお付き合いくださった皆様、いつも褒め(おだて)てくださった編集部様、ありがとうございました。