映画「ムクウェゲ『女性にとって世界最悪の場所』で闘う医師」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 デニ・ムクウェゲ医師(67歳)は、アフリカのコンゴ民主共和国(コンゴ民)の東部国境沿いにあるブカブという都市で病院を営み、これまで20年以上にわたり、5万人の女性の治療にあたってきた。2018年にはノーベル平和賞を受賞している。本作は、ムクウェゲ氏の活動や人となりに迫るドキュメンタリー。

 

 この病院(パンジ病院)に運び込まれて来る女性はみな、武装グループによるレイプの犠牲者だ。そのレイプとは、男の欲望のはけ口として食い物にされたという性格のものではない。武装グループは住民支配のための恐怖の戦略的武器として、レイプを使う。その犠牲者たちの様相は想像を絶する。女性として、一人の人間として、微塵の尊厳さえ残さず肉体も心もズタズタにされるのだ。

 

 冒頭、ムクウェゲ氏が講演で語る内容に耳を疑う。氏が近年、一番辛かったのは、生後6ヵ月の赤ん坊を手術した時で、性器から内臓まで破壊されていたと。武装グループは赤ん坊から90過ぎの老婆まで容赦なくレイプし、男たちは銃を突き付けられながらそれを見るよう強要される。こうして地域共同体を破壊し、住民を奴隷化していく。実はコンゴ民は、レアメタルなど鉱物資源の世界有数の埋蔵量を誇る。私たちが普段何気なく使っているスマートフォンの製造にそれは不可欠だ。

 

 武装グループの狙い目はそこなのだ。ブカブは、100を超える武装勢力がひしめく。隣国が大虐殺のあったルワンダであることも無関係でない。ムケウェゲ氏は度々の殺害予告にも屈せず、「人のために尽くせるのが人間である証」「悲劇から目を背けるのは共犯と同じ」と信念を訴える。

 

 ムケウェゲ氏は、「利他」の精神を日本から学んだという。本作を観て改めて自問する。見て見ぬふりや傍観すること、そんな自分の醜さがコンゴ民の現状を作り出していないかと。今、地獄から生還し、力強く人生を再出発しようとする彼女たちの笑顔のためにも、私たちが「利他」に還らなければならないのだ。

 

 さて今現在、世界はロシアのウクライナ侵攻に衝撃を受け、揺れ動いている。さらに輪をかけて、主権国家への侵略、無辜の市民への殺戮行為という白昼堂々の国連憲章違反および国際法上の人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪に対して、相手が核大国であれば、何らそれを止める手段がなく、ちまちまと経済制裁をやることしかできないという現実に、二度衝撃を受けるという状況が出来している。

 

 もっとも、SWIFTからのロシア排除の措置は強力だが、ゼレンスキー政権が排除され、国民が人質に取られたまま全面占領されたら継続は可能なのか。なお石油や天然ガスを中心にロシアにエネルギー資源を依存してきたEU諸国は、早期の停戦実現によってエネルギー供給の正常化が喉から手が出るほど欲しいという本音をロシアに見透かされていよう。この21世紀未曾有の国家による凶悪犯罪に、ただの一か国も断交という英断が頭の片隅にもよぎらないというのが国際社会の現実なのだ。みんな計算づくよ。

 

 とまれ、それで本作が肉薄した問題が相対化され、希釈されたわけでもない。本件も今そこにある現実である。わが日本は全ての問題解決のために、目を見開き、意を尽くし、出来得る限りの自己犠牲を払うべきだ。惰眠を貪る時間など寸暇も認められない。ムクウェゲ氏が指摘するように、コンゴからの鉱物資源の恩恵を最大に受けている立場なのだから。

 

 監督は長年ニュース番組の記者を務め、今もTBSに所属する立山芽以子氏。ナレーションには常盤貴子さんを起用している。