映画「新解釈 三國志」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 「三國志」は、言わずと知れた2世紀末から3世紀初頭にかけての中国三国時代の魏蜀呉の興亡史。劉備、曹操、孫権など英雄たちの群雄割拠、智謀知略と権謀術数をめぐらした勇壮かつ熾烈を極める戦の連続、個性あふれる登場人物による人間ドラマなど、1800年もの時を経て今なお、人々の壮大な歴史ロマンを掻き立て、物語は読み継がれている…。と、まあ三國志はこの際、どうでもいいわ。本作はどこまでも福田雄一監督が、稀代の喜劇役者大泉洋を主役にして、メガホンを取りたかっただけ。その仕掛けであり、舞台装置が「三國志」ということになったまで。エクスキューズとして、「新解釈」と枕言葉を付けて、西田敏行扮する蘇我宗光というとぼけた歴史学者の自説という体裁で、ストーリーが進行していく。

 

 そして、キャスティングに当たっては、この稀代の喜劇王と激烈な化学反応を起こし、劇場を爆笑の渦に包むことできるのは誰か?との選考基準だったろう。以下、本作パンフからメインキャストらの言葉を拾ってみる。

 

劉備役・大泉洋

 「全国の『三國志』ファンのみなさん!僕には怒らないでね。怒られるのはムロくんと(佐藤)二郎さんで決まりです(笑)」

 

孔明役・ムロツヨシ

 「基本的に福田さん(監督)はあまり役作りを求めない方なんです。今回も役作りなくムロくんでやってもらいたいということだったので、そのままやらせていただきました。でも撮影の前に『レッドクリフ』を観ちゃったんで、ちょっと僕じゃない部分が(笑)。金城さん風で。観なきゃよかったですね」

 

董卓役・佐藤二郎

 「今回のお話をいただいて、気の遠くなるような長い年月をたくさんの人に愛されている『三國志』ですので、撮影に入る前に滝に打たれ、寺で断食しようと思いましたが、監督が福田雄一と知り、全てやめました」

 

貂蝉役・渡辺直美

 「お話をいただいたとき、なぜか貂蝉を張飛と読み違えて、台本の最初の数ページ、張飛のセリフを覚えてました。『うわ、屈強な男役どうしよう…』と震えていたら違いました(笑い)」

 

などなどといった具合。まあいい加減この上ない。

 

 ただ、黄巾の乱を起こした、黄天の逆賊という端役での登場に過ぎなかった山田孝之は、「出演が決まって、あの”大泉洋”に会える! あの”大泉洋”と芝居ができる!と。目的はそれだけです」などと語るが、そういう思いを抱いた役者もけっこういたかもしれない。まあしかし、このメンツの中で曹操役・小栗旬と呂布役・城田優はキャスティングミスだろうな。逆の意味で。どう考えても浮いてた。

 

 さて、大泉洋は、地元北海道HTB製作のオバケ番組「水曜どうでしょう」をベースにキャリアを積み、ついに紅白の白組司会まで上り詰めた。昨年末の第71回紅白は、コロナ禍の無観客という前代未聞のシチュエーションだったが、第2部の平均で40.3%(瞬間47.2)をマーク。2年ぶりに40%台に乗せたという。大泉はバラエティーのMCは初ではなかったか。しかも紅白という大舞台でその役割をソツなくこなしたと言えよう。ただ、昨年大泉はNHKの番組に何か出てたか?そういう意味で大抜擢だった。

 

 彼が所属するチームナックスは、安田顕を筆頭に今やテレビやスクリーンで観ない日はない(リーダーの森崎博之以外)。「水曜どうでしょう」のオバケたる所以は、深夜帯の放送枠にも関わらず、二桁の高視聴率もさることながら、その構成と企画にある。キャスティングは基本的に、タレント大泉一人と事務所社長の鈴井貴之の二人。これもぶっちぎりの異例。そしてスタッフは、ディレクターの藤村忠寿とカメラマンの嬉野雅道という総勢4人だけの体制。

 

 基本「旅番組」だが、原付で日本列島やベトナムを縦断したり、北海道のカントリーサインを探しまわったり、お遍路となって四国八十八箇所を巡ったり、ヨーロッパ21カ国を回ったりと特に目的があるわけでなく、サイコロで回る順番を決めるなど、ひたすら自らを追い込むハードなスケジュールを科し、そこで大泉を中心に巻き起こる独特な感性の笑いというものを追求していく。

 

 毎回、見モノは大泉と画面の枠外からの藤村の掛け合いというか、悪口の言い合い。ゲストはなく、現地の人との絡みも一切ない。ただ、旅の終わりには、さわやかな感動も待ち受ける。とはいえ、普通、こんな企画では番組になるどころではなく、並大抵のタレントではこなせないが、96年から断続的に現在まで続く。北海道のマニアックなローカルバラエティーでしかなかった同番組は、今では繰り返し再放送される全国区へと知名度を上げた。さすがに2020年版はメンバーも歳をとって、疲れた感がしないでもなかったが。森崎が気合入れて、ミスターの代わりに頑張れと勝手に思う。

 

 ともかくも「水曜どうでしょう」をベースにしている大泉は強い。今回の紅白をきっかけにMCの依頼が当然舞い込んで来よう。だが、在京キー局でバラエティーのレギュラーはやらないし、やれないだろう。ま、ここまで彼を持ち上げたけど、本作のズッコケぶりはハンパないけどね。チャンチャン!!

 

(出演)

大泉洋、ムロツヨシ、橋本環奈、橋本さとし、髙橋努、岩田剛典、渡辺直美、賀来賢人、山本美月、岡田健史、矢本悠馬、半海一晃、小栗旬、阿部進之介、佐藤二朗、城田優、山田孝之、西田敏行、ほか

(監督)福田雄一