映画「男はつらいよ お帰り寅さん」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 「男はつらいよ」を劇場で観るのは当方は初めて。かつては正月映画の定番で、これを観て1年が始まるという人も多かったはず。本作は、「男はつらいよ」50周年にして、50作目の作品。だが、主演であるべき寅さん役の渥美清は没してから24年を経る。

 

 この”フィフティー・フィフティー”を逃してたまるかとの意気込みは分かる。ただ、シリーズの珠玉のシーンを寄せ集めて、それを繋いだだけで寅さん映画が成立するの? 心配ご無用。そこは名匠山田洋次監督、ぬかりはない。1997年に公開された前作「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」も前年に渥美清が急逝し、その追悼を込めて、25作目のデジタルリマスタープラス新撮映像の挿入で構成されたそう。

 

 じゃ今回どうなるのか。主演は寅さんの甥っ子である満男(吉岡秀隆)で、その脇をお馴染み、さくら(倍賞千恵子)と博(前田吟)の夫婦が固め、タコ社長の娘朱美(美保純)、源公(佐藤蛾次郎)、リリー(浅丘ルリ子)などが華を添える。これまでの作品も結構そうだったと思うが、冒頭が満男の夢の中のシーンから始まったのは、シリーズへのオマージュであり、やっぱり「男はつらいよ」だなと思った。

 

 物語は…。サラリーマンを辞めて作家となった満男は、一人娘のユリ(桜田ひより)とマンションで二人暮らし。妻に先立たれてすでに6年が過ぎていた。デビュー作は思いのほか評判がよく、出版社の担当者高野(池脇千鶴)からは、次回作にも期待が寄せられていた。

 

 書店での満男のサイン会でのこと。偶然、昔の恋人である及川泉(後藤久美子)が立ち寄り、二人は再会する。泉は国際結婚し、二人の子の母親でもあった。そして今現在、国連の難民高等弁務官事務所の職員として世界中を忙しく飛び回る毎日。日本での仕事の合間に休暇をもらい、明日は、積年の恨みのある父親が暮らす介護施設に会いにいく予定にしていた。

 

 満男は泉を連れ立って、寅さんと恋中だったリリーの店へ赴き、昔話に花を咲かせる。それから泉の願いで、旧くるまやの裏手の住居にさくらと博を訪ね、ここでも昔話に花が咲き、結局一晩泊めてもらうことになった。寅次郎が寝起きしたあの二階部屋に。ただ、明日の父親との再会に不安を隠さない泉。泉に気を遣わせまいとして、妻が亡くなっていることを伏せた満男。明日は満男が車で泉を送っていくことに。お互い明るく振舞いつつも、あふれ出る思いを押し殺した二人だったが…。やがて、別れの時が来た…。

 

 前作から設定上も実際にも20年余の歳月が過ぎた。移り行くものと変わらざるもの。団子屋「くるまや」もいつしかカフェにリニューアルされ、帝釈天の御前様も二代目(笹野高史)が引き継いだ。おいちゃんやおばちゃん、そして歴代マドンナたちも既に鬼籍入りとなった人も多い。さくらと博もすっかり老人の域。あの幼かった満男が中学生の娘をもつ父親で、しかも妻には6年も前に先立たれていたり、私生活では吉岡は、「北の国から」で共演した内田有紀との結婚と破局があった。それぞれの人生、それぞれの家族、悲喜こもごも…。

 

 そういう中で、出演者の回想というかたちをとって、デジタルリマスターされた寅次郎の珠玉の名場面が生き生きと映し出され、一陣の風よろしく吹き抜けていく。あの四角い顔が繰り広げるいじけっぷりも、空気の読めなさも、意地っ張り具合も、漂う哀愁もすべて愛おしい。渥美清は、映画界における唯一無二の存在、日本の至宝といえよう。加えてラストでは、歴代マドンナたちが続けざまにスクリーンに登場し、その清楚で凛とした(違う人もいるけど)昭和女優の美しさに、しばしうっとりと心奪われた。

 

 本シリーズはフーテンの男が主人公だが、劇中、泉が満男に「あなたの家族を私がどれほど羨ましく思っているか、あなたはにはわからない」というセリフを吐いたように、畢竟、行き着く価値観は「家族」ということだろう。

 

(出演)

倍賞千恵子、前田吟、吉岡秀隆、後藤久美子、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、小林稔侍、笹野高史、橋爪功、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、林家たま平、立川志らく、ほか

(監督)山田洋次