映画「追憶の森」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 自殺の名所、青木ヶ原樹海。一たび足を踏み入れたが最後、ケータイは通じず、コンパスは効かず、無間迷路をさまよう羽目となる。劇中でも主人公が樹海を分け入って進む道すがら、数体の遺体を目にする。人は絶望の果てにここを訪れる。ここはさながら冥界への入り口か。

 ただ一方で、高台から見た樹海はまさに樹木の海だ。視界の一番遠くは、森と空が接する。森の中は、緑したたる手つかずの原生林で、何か底知れぬ神秘さや生命力に満ちており、取りようでは、この一帯がパワースポットといえなくもない。

 主人公アーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)も米国から片道の航空チケットで樹海に辿り着いた。荷物は持たず、コートのポケットに錠剤のボトルをしのばせて。

 彼は妻を亡くした。数年前から夫婦関係は最悪で、離婚寸前の状態だったが、皮肉にも妻ジョーン(ナオミ・ワッツ)が病いを患ったのをきっかけに、夫婦は和解しはじめ、互いの愛情を確かめ合うまでになった、その矢先の出来事だった。ジョーンの死によって生きる意味と目的を失ったアーサー。樹海を訪れたのも無理からぬことだったのか。

 最後の場所を決めたアーサーの目に人影が動く。ナカムラ・タクミ(渡辺謙)と名乗ったこの男は、自殺を試みたが死にきれず、何日も森を彷徨ったと言い、しきりに家族の元へ帰りたいと口にする。期せずして、これまた皮肉な二人のサバイバル劇が始まるが、このタクミとは一体何者で、一見、不可解な二人の邂逅の意味するものは何なのか。それはラストで明らかになろう。

 ともかくも、アーサーは、来るべくしてここへ来て、出会うべくして彼に出会った。すべて導かれた結果ということ。世の中には必然ということがあり得る。

 罪悪感にとらわれたアーサーにタクミは、「たとえ死んでも人は、愛する人の側にいる」と諭すように語りかける。”生きよ”というメッセージと受け取りたい。

(出演)マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ、ケイティ・アセルトン、ジョーダン・ガヴァリス、ブルース・ノリス、ほか
(監督)ガス・ヴァン・サント